How Life Science Apprenticeships Can Launch New Careers in Biotech

バイオテック業界の雇用が爆発的に増加しており、米国マサチューセッツ州東部など、注目のハイテクコリドー(集積地)では求人数が求職者数を上回る人手不足の状況にあります。人材開発機関のMassBioEd(マサチューセッツ バイオテクノロジー教育財団)によれば、2024年までに同州内に新たに誕生する研究・生産施設の総面積は1,800万平方メートルに達し、4万人の新規雇用が創出される見通しです。MassBioEdでは、人手不足解消に向けて「ライフサイエンス実習生」という新しいバイオテック雇用研修プログラムを開発し、コーニング ライフサイエンスなどの参加企業と求職者の橋渡しをめざしています。

コーニングで同実習生プログラムの責任者を務めるSylvia Jarest氏は、次のように話しています。「MassBioEdとのパートナーシップに大きな期待を抱いています。実習生にライフサイエンス領域の知識を深めていただく中で、さまざまな体験の場を提供したいと考えています」

コーニングのバイオロジック マニュファクチャリング テクニシャンの実習生第1号となったEssau Austin氏は、理想的な機会だと評価したうえで、次のように説明します。

「自分の力を伸ばせる仕事を探していました。この実習生制度は、私の思いをかなえてくれる理想的な機会となりました」

労働市場の逼迫があぶり出す技能者不足

ライフサイエンス業界は急成長していますが、その好況に水を差すのが熟練労働者不足です。MassBioEdなどの試算によれば、研究室の重要ポストを担う労働者が足りなくなる見通しで、業界リーダーらは人手不足が成長の足かせになると予想しています。

人手不足は、米国に限った話ではありません。カナダの調査会社BioTalent Canadaが発行する労働市場レポートによれば、カナダのライフサイエンス業界は、2029年までに全国で6万5千人の人手不足に陥ると見込んでいます。カナダのライフサイエンス業界支援組織であるadMare Bioinnovationsは、熟練労働者不足がカナダの医療にとどまらず経済全般にも影を落とすと見ています。

その打開策となるMassBioEdの実習生プログラムは、多様な人材の採用を通じて人手不足解消をめざしています。

MassBioEdのKarla Talanian氏は、「地域社会に目を向けると、心構えの面でも素質の面でも、業界に入れば中級スキルの職務をしっかりとこなせそうな人材は多い」としながらも、そもそもどうやって業界に入ればいいのかわからない人が少なくないと指摘します。

バイオテックのキャリアづくりへ踏み出す

2001年に設立されたMassBioEdは、大手企業やステークホルダー、政府からの声も含め、業界のニーズを定期的に検討してきた末に、2020年、ライフサイエンス実習生プログラムを立ち上げました。実習生という形で研修を行う同プログラムは、3〜6カ月間の講義に続いて、実際に企業の現場に出て実地研修を受けます。MassBioEdでは、短期集中トレーニングと関連スキル開発に重点を置き、ライフサイエンス系の企業、大学、専門職団体と緊密なパートナーシップを結んでいます。

「ライフサイエンス実習生プログラムは、業界の課題を解決するために開発されました。この業界では、人材需要が供給を大きく上回っていることもあって、多くの職務に採用可能な人材プールづくりにつながる革新的なプログラムが求められています」(前出のTalanian氏)

この実習生の募集は、Austin氏が言うように、これまで活用されていなかった層から参加者を見つけ出すことを狙っています。労働力多様化の画期的な手法を追求する同プログラムは、従来とは一線を画する方法で人々に働きかけます。

「広域を対象に、どこにいる人材でも見つけ出す」とTalanian氏が説明するように、MassBioEdでは、求人検索エンジンのIndeedへの求人広告出稿はもとより、地域ごとの組織や地域の労働力開発委員会、成人教育センター、移民や退役軍人の支援団体とも緊密に連携しています。

「図書館やヘアサロン、カフェなど地域の人が集まる場にチラシを置いてもらい、新たなキャリアづくりに興味のありそうな人々を集めています。口コミも重要です。LinkedInの登録情報を友人や家族・親族が共有していることも多いですから」(Talanian氏)

MassBioEdでは、テーマに対する熱意に応じて候補者を選定し、科学分野での経歴がない候補者には、相応の支援体制も整えています。トレーニング期間中は奨学金があるうえ、受講料は無料です。候補者が提出した願書に基づき、適性に応じてライフサイエンス実習生プログラムの採用可否が決まります。

「面接では、このような分野で働くことに対する各志願者の関心度合いや、困難に見舞われてもやり遂げる熱意を見極め、信頼性、問題解決能力、チームの一員としての協調性などを評価します」とTalanian氏。

求人側企業の視点

コーニングはライフサイエンス実習生プログラムに関わり始めたばかりですが、大きな手応えを感じています。実習生第1号となったAustin氏は、すでに業務体験担当チームと接触しながら、将来に向けて大きな可能性を見出しています。

「伸びしろは常にあると(コーニングの同プログラム責任者である)Sylvia Jarest氏から説明を受けました。お話をして、この世界こそが自分の居場所なんだという思いが強まっています」とAustin氏は話します。

その思いはJarest氏も同じで、コーニングでは、Austin氏がスタートラインに着くまでの準備段階を全面的に支えてきたと言います。

Jarest氏は次のように説明します。「当社では、今年からこのプログラムに参加しています。プログラムの講師数人と相談して、7月にはある講義に参加し、当社の業務内容を紹介したうえで、職場で新人が遭遇しそうな現実的な状況について話し合いました」

コーニングの担当チームからは、人間関係づくりの方法やコーニング ライフサイエンスへの研究技術者の貢献度について情報を提供しました。Jarest氏は、熱意のある実習生を新規採用すれば大きな価値を発揮してくれるはずと自信をのぞかせます。

「実習生には、ライフサイエンスの基盤となる基礎知識を身につけ、研究室での実地トレーニングを受けていただきます。こうすることで、職場に適応しやすくなり、トレーニング期間の短縮につながります」(Jarest氏)

バイオテック業界のキャリアの道を開くライフサイエンス実習生制度

「高校を卒業しても、どの道に進めばいいのか自信が持てなかった」と語るAustin氏は、エンジニアの家系に育ったこともあって、まずはその道をめざしました。そのような家庭環境に育ち、エンジニアリングの考え方に精通していたため、本人に言わせれば安全な道を取ったそうです。「大学で1年ほどエンジニアリング分野を学んでみましたが、自分にはあまり合いませんでした」

実習生となったAustin氏の目には、教室での講義が極めて貴重なものに映りました。生物学、真核生物と原核生物の違いに始まり、ピペットによる正確な計測、標準作業手順書の重要性、品質の一貫性を維持するQAに至るまで、トレーニング内容は多岐にわたりました。

「今までで一番おもしろかったのは、研究室での体験です。使用する機器やPPE(個人用防護具)の正しい装着方法に慣れるいい機会になりました」とAustin氏。

Austin氏は、対面の授業のほうが肌に合っていることもあり、教室での講義にもすんなり馴染むことができました。気づけば、緩衝液の調製作業やバイオセーフティキャビネットでの正確な溶液の作り方の学習にのめり込んでいたと言います。

また、グループ作業やチームとしての課題にも楽しみながら取り組みました。ある課題では、サステナビリティの問題が持ち上がったため、研究室でのプラスチック製品の正しい使用法や選定法をグループで検討したそうです。さらに、実習生プログラムの効果を最大限に引き出す鍵となるのは、広い心で自由闊達にコミュニケーションできる風通しの良さだとAustin氏はアドバイスします。

「これからMassBioEdのプログラムに参加する皆さんにぜひお勧めしたいのは、先入観を持たず広い心を持ち、学びの姿勢を忘れずに、与えられた課題に全力で取り組むことです。最大の秘訣を1つ挙げるとすれば、コミュニケーションです。このプログラムではコミュニケーションがものを言います」とAustin氏。

さらに、この教育プログラムは、学歴や経歴を問わず、しっかりと受け入れて後押ししてくれるとも。

「たとえ科学の心得がなくても、教える側が上手に導いてくれます。学習が進むにつれて、内容も高度になっていきましたが、その辺りから学習のペースもぐんと上がっていきます」(Austin氏)

いよいよ業務体験期間が始まることについてAustin氏は、少し緊張気味ですが、前向きな姿勢を忘れません。

「プログラムのおかげで足がかりを得て、そこから学びと成長につなげることができたという意味で、私のキャリアづくりを応援してもらっています」とAustin氏は熱く語ります。

この感想にTalanian氏もうなずきながら、次のように語ります。「素晴らしい機会。奨学金付きの無償教育を受けられて、1年間報酬をもらいながらのOJT(オン ザ ジョブ トレーニング)で学べる貴重な体験です。単なる新たな勤め口というよりも、生涯にわたって充実したキャリアを積むための入り口なのです。仕事の面で成長できる機会がたくさんあります」