Scaling up with Spheroids Opens up New Possibilities in Cancer Therapy

スウェーデン ウプサラ大学の研究者が、がん治療のためのドラッグリポジショニング研究を行う革新的な休眠スフェロイド細胞モデルと独自のハイスループットスクリーニングプロセスを構築

既存の1,600もの化合物のスクリーニングを成功させるという、この規模では初めてのハイスループットスクリーニング解析で、Wojciech Senkowski氏とウプサラ大学医学部、カロリンスカ研究所のチームは、三次元結腸がん培養細胞(多細胞腫瘍スフェロイド)への化合物の影響を分析し、休眠状態の細胞に対して強い抗腫瘍活性を示す抗寄生虫薬があることを突き止めました。1

 

これだけでも画期的な発見でしたが、続いて行われた、同じ3D細胞培養法を用いた遺伝子発現解析研究により、Senkowski氏らは休眠状態のがん細胞に障害性を持つ化合物をさらに特定しました。これは3D細胞培養を用いたハイスループットスクリーニングの論理的根拠を一層支持するものでした。加えて大規模での3D細胞培養における遺伝子発現研究の新規プラットフォームも提唱しました。2

チームリーダーのMårten Fryknäs 氏は、「これらのふたつの論文は、遺伝子発現と薬物応答の両方において培養条件が重要な意味を持つことを示しています。」 と述べています。

 

なぜ休眠状態の細胞なのか?

ヒトの腫瘍内にあるがん細胞の大多数は酸素や栄養に富んだ状態のため、簡単かつ急速に増殖できます。化学療法のような典型的ながん治療を受けると、これらの細胞は影響を受けやすく一般的には狙った通りの効果が得られます。しかし、そうではない環境下のがん細胞は休眠状態に入っており、標準的な治療ではこれらの細胞を全滅させることは困難です。化学療 法の効かなかった休眠状態のがん細胞は、周囲の環境が増殖を開始するのに都合がよくなるまで休眠状態を維持します。これが、治療を止めたときの再発に寄与しているのです。

 

「休眠状態にいる細胞は血管から離れており、増殖するには酸素や栄養が十分ではありません。しかし、生き延びるのです。多くの標準的な化学療法はこれらの細胞に届くことすら叶わず、 細胞は回復して疾患の再発につながります。このことが、わたしたちがとりわけこれらの休眠 状態にある細胞をターゲットに化合物を試験している理由です。」と博士研究員のWojciech Senkowski氏は語りました。

3D 細胞培養とハイスループットスクリーニングの背景

ウプサラ大学の研究チームは、薬物化合物への応答を見るためにスフェロイドモデルを使って体内で休眠状態にあるがん細胞を模したin vitro モデルの作製に特化しています。ハイスループットスクリーニングを用いることで研究チームは、がん細胞がターゲティングされる仕組みについての理解を深め、またがん治療に転用できる可能性がある既存の薬剤を見つけ出すために、可能な限り多くの化合物を調べることができます。

ではどのように?

発見のツールはコーニングから

Fryknäs氏のチームでの初期のドラッグリポジショニング研究ではCorning® 超低接着(ULA) 表面マイクロプレートをがんのスフェロイドモデル作成に使用していました。試行錯誤を経て、研究チームは再現可能ながん細胞3Dモデルの培養方法を構築しました。しかしこのプロセスはそう簡単にはいきませんでした。

「最初の実験で、セレンディピティのかけらのようなものはありました。」Fryknäs氏は語ります。「プレートがほんの少し傾いていて細胞がウェルの隅にころがって偏って凝集していたのです。インキュベーターの中にロッカーを入れてスフェロイドが作れることに気付きました。ただこれは手間がかかって複雑です。より標準的なフォーマットが必要でした。」

Fryknäs氏のチームは発売前の、新しいCorning スフェロイドマイクロプレートを試す機会がありました。ULA表面で独自のウェル底形状を持つスフェロイドマイクロプレートは3D細胞培養において高い再現性を示しました。スフェロイドを形成、培養し、蛍光または発光シグナルを計測するアッセイを、スフェロイドを移し替えることなく同一のプレートで行うことができ、それによりばらつきを抑え、処理能力を上げ、自動化やハイスループットスクリーニングのプラットフォームを改善することができます。

スフェロイドマイクロプレートに切り替えると、研究チームの化合物試験システムは再現性が向上し、使いやすくなりました。Senkowski氏は、スフェロイドマイクロプレートを使うことは“当然の選択だった”と語っています。

がん治療におけるドラッグリポジショニング研究の利点

すでに広く使われている化合物であれば、臨床情報はすでにあります。既存の薬剤を別の疾 患にテストするときには臨床試験での安全性データを参照することができます。Fryknäs氏と研究チームが行っているようなハイスループット研究では、数千もの候補となる治療薬について、新しい治療法となる可能性を調べることができます。既存薬、新規治療薬候補のどちらに 対しても、腫瘍細胞応答についてさらなる理解を深めることもできます。

参照

1. Senkowski W, Zhang X, Oloffson MH, et al. Threedimensional cell culture-based screening identifies the anthelmintic drug nitazoxanide as a candidate for cancer treatment. Mol Cancer Ther. 2015;(6):1504- 1516.

2. Senkowski W, Jarvius M, Rubin J, et al. Large-scale gene expression profiling platform for indentification of content-dependent drug responses in multicellular tumor spheroids. Cell Chem Biol. 2016;(23):1428-1438.