以下は、2025年3月28日にCell & Gene Therapy Insightsに掲載された記事を翻訳したものです。
「MSC(間葉系幹細胞)やエクソソームを使う
最大のポイントは、現時点で治療法がない疾患を
治療できる可能性があることです」
今回の専門家円卓会議では、経験豊富な業界専門家4人をパネリストに招き、試薬の選定、投与、送達方法、最終製剤組成など、間葉系幹細胞・間葉系間質細胞(MSC)製造の重要課題について議論します。また、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来MSC、遺伝子改変MSC、エクソソームベースの治療薬などの新興モダリティを考察し、アクセシビリティと臨床効果の向上に向けてコスト削減やスケーラビリティに優れた製造の必要性を説きます。
Q:幹細胞治療薬の開発者にとってMSCの魅力はどこにあるのですか。
Shirley Mei(以下SM): MSCが注目を浴びるようになったのは、骨、軟骨、脂肪への分化能があり、さまざまな再生目的に利用できるからです。例えば、整形外科などの領域で大きな可能性を秘めています。時間が経つにつれて、MSCは組織再生だけでなく、宿主免疫系の調節も可能なことが判明しました。MSCは、敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)など、異なる疾患環境で使用すると、免疫細胞と相互作用し、マイクロRNAやエクソソーム、タンパク質などの分子を分泌し、免疫系の応答に影響を与えることができます。
例えば、敗血症の場合、患者が過剰炎症を起こすだけでなく、多くの場合、その後に免疫抑制を生じることもあります。つまり、炎症抑制する薬剤を投与するだけでは、後に免疫抑制期に移行した患者にとっては有益ではなくなるわけです。幸い、MSCは周囲の状況に適応し、免疫系を活性化する方向にも、抑制する方向にも働きかけることで、生体に影響を与えることができます。
開発者、アカデミア、業界の大企業がMSCに魅力を感じる最大の要因は、同種間細胞として使用できる点にあります。ドナーとレシピエントを適合させる必要がないのです。この結果、MSCベースの細胞治療薬が、採算の取れる薬剤に発展する可能性が広がります。例えば、単一ドナーまたはドナープールから細胞を単離し、大量のMSCを作製できます。その後、この細胞をさまざまな用量にパッケージ化し、非血縁者レシピエントに投与できるため、原価(COG)削減につながる可能性があります。
Q:MSCが有望とされる、主な疾患の適応症と応用分野は何ですか?
Tony Ting(以下TT): MSC の特性と強力な安全性記録を考慮すると、MSC を使用した研究は 1,000 件を超えており、さまざまな適応症をカバーしています。先に述べたように、整形外科は、MSCが最初に探究された領域のひとつです。もうひとつ、移植片対宿主病(GVHD)も挙げられます。先ごろ米国で、小児のステロイド抵抗性GVHDの治療に用いるMSC製剤が初めて承認されました。さらに、COVID-19関連の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)など、さまざまな呼吸器適応症にもMSCが用いられています。神経学的病態に関するMSCの研究も進められており、脳卒中など中枢神経障害の研究もあります。多発性硬化症など、自己免疫疾患も探求されてきた領域です。
SM: 先ほど触れたように、MSCは、現時点で効果的な治療法のない敗血症や敗血症性ショックに使用できる可能性があり、私たちはこうした課題の解決に向けて、改良型MSC製剤の開発に取り組んでいます。
Irana Coletti Malaspina(以下ICM): ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、多くの神経変性疾患への適用があります。
Whitney Cary Wilson(以下WCW): 酒さ(しゅさ)や基本的な創傷治癒など、さまざまな局所投与にMSCが用いられています。また、カリフォルニア大学デービス校では非常に興味深い研究が進められていて、二分脊椎状態の乳児にMSCベースのパッチが使われています1。具体的には、子宮内の胎児へパッチ貼付手術が行われます。
Q:MSCを扱ううえで最大の課題は何ですか。
ICM: 私の見解では、MSCを医薬品として使用するうえで最大の課題は、標準プロトコールを確立することです。製造のスケールアップで、アカデミア研究室の小バッチから、大バッチに開発が移行する際、常に単離の手順に注意する必要があります。単離プロセスにおいて、組織源によっては、他の細胞タイプや微生物のコンタミネーションを生じさせるおそれがあります。
もう1つの課題は、表現型と力価に関わるものです。特に遺伝子マーカーがある場合、標準的な品質管理を確立しにくくなります。最初は多くのMSCがあっても、ここから少数のバッチを選んで製造に進んでいく必要があります。また、MSCは、培養期間が長くなるにつれて老化し、課題が増えていきます。
MSCを扱う場合、適切な増殖速度を考えておく必要もあります。培養中の細胞の継代回数を制限し、表現型と分化能に注意することが不可欠です。製造全体を通じて、優れた品質管理と質の高いプロセスを確保することが大切です。スケーラビリティも重要な課題です。そこで、MSCを扱う場合には、プロセスのスケールアップ方法を慎重に計画し、しっかりとした品質管理体制を確立して製造を支援しなければなりません。
SM: 組織の供給源や規制順守も非常に重要な課題です。例えば、骨髄、脂肪組織、臍帯血から細胞を単離する場合、倫理審査委員会の審査を受けて了承を得るだけでなく、適切なドナースクリーニングを確実に実施する必要もあります。さらに、組織の供給源の試験も実施しなければならず、これを基にマスター細胞バンクを構築した場合、このバンクも試験対象になります。
地域によって、適用される規制上の要件は変わってきます。アカデミアでは、基本的に細胞を単離して、臨床試験に向けてスケールアップすることが中心です。しかし、企業の場合、特に法制度の異なる地域で製剤の上市や販売を計画しているときには、様々な種類の規制要件も考慮する必要があります。
もう少し科学寄りの話をするなら、力価も重要な要素です。力価試験のタイプは、適応症に特化したものでなければなりません。MSCはT細胞増殖を阻害する性質があるため、多くの研究者がT細胞阻害試験を行います。これはGVHDなどの病態に一般的に用いられるアプローチです。しかし、敗血症などの疾患は、力価試験を慎重にデザインしなければなりません。薬剤製造やプロセス開発の際、スケールアップしても細胞の力価が確実に維持されるようにする必要があり、規制機関もこのデータを求めることが増えています。当初は早期相のアッセイデータが受け入れられても、後に、こうしたアッセイは出荷判定規格の一部になる可能性があります。したがって、MSCの開発に当たっては、臨床グレードの細胞の製造に向けたスケールアップ戦略を策定する際、力価試験を慎重に考慮しなければなりません。
TT: 作用機序を理解し、製造プロセスの制御を確実に維持することが大切です。しっかりとした力価試験の開発は必須であり、日常的に利用できるようにする必要があります。もう1つ触れておきたい重要ポイントは、培地です。MSCの培養初期は、ウシ胎児血清(FBS)が広く使われていましたが、実はMSC製造に理想的な成分ではありません。現在、ほとんどの民間企業は、ゼノフリーの培地組成に移行しており、完全合成培地か、ヒト血小板溶解液含有培地のいずれかになっています。 ただし、ヒト血小板溶解液含有であっても、バッチ間のばらつきへの懸念があり、慎重な管理が求められます。
Q:こうした課題に研究者はどのように取り組んでいるのですか。
SM: 私の研究室では、臨床用の細胞の製造スケールアップに関して、さまざまな方法に取り組んでいます。これは研究室レベルでの方法とは大きく異なります。例えば、マウスを使う場合、1匹当たりに使用するMSCは100万個程度で済みます。ところが、患者治療用のMSCとなると、1回用量に必要な投与量は3000万個〜10億個にもなります。そこで問題となるのは、臨床グレードで規制要件にも準拠しつつ、MSCを大量に製造するには、どうスケールアップするのかという点です。
調達先との協業により増殖プロトコールの最適化にも取り組み、マイクロキャリアやバイオリアクターなどの方式も模索しています。MSCで難しいのは、接着細胞である以上、増殖するための表面が必要という点です。MSCは、何らかの接着先が必要であり、マイクロキャリアを使用する理由もそこにあります。しかし、マイクロキャリアはさまざまなタイプがあり、MSC増殖に適しているだけでなく、細胞の剥離を防ぐものもあります。実は、この剥離も、私たちが解決しようと挑んでいる課題の1つなのです。
また、培地には多くの選択肢があり、それぞれが3Dまたはバイオリアクターベースの培養でMSCを異なる方法で増殖させることができます。私たちは2D培養も行っています。技術移転の障壁が少ないからです。プロトコールを研究開発レベルの薬剤開発環境からCDMOに持ち込む場合、CDMOではGMPグレードのMSCを製造し、細胞培養の表面積も大きくなるのですが、ここに新たな課題が生じます。通常、大型の施設やインキュベーターが必要ですし、培養細胞の管理や細胞回収に当たる人員数も増やす必要があります。また、培地も大量に必要なため、原価に影響が及びます。早期臨床試験や細胞治療法には大量の投与が必要ないため、通常は2D培養が容易です。しかし、細胞培養のスケールアップ後も、依然として力価が維持されているかどうかも検討しなければなりません。先ほど挙げた遺伝的安定性も非常に重要です。
TT: 最大の課題の1つとして、出発材料のばらつきがあります。すでに議論しているように、MSCはさまざまな組織源から単離できます。MSCを使った臨床試験はすでに1,000件以上実施されていますが、承認に至った薬剤はほとんどありません。1つの問題として、MSCが有効であっても常に十分な力価があるとは限らないという点があります。このため、細胞の力価を高めようとさまざまな手法が生まれています。この中には、さまざまなサイトカイン混合物によるMSCのプレコンディショニングがあります。また、遺伝子改変MSCを使って特性を強化しようと取り組んでいる研究者もいます。さらに私にとって興味深い技術の1つとして、iPS細胞由来MSCの開発が挙げられます。これには、複数ドナーを必要とする標準的なMSCと違って、一貫して確保できるドナーソース(オリジナルのiPS細胞株)があることなど、いくつかの利点があります。総合すると、こうしたアプローチはいくつかの課題の克服に役立つと思います。
さらに、商用化計画について検討しておくことも大切です。開発プログラムが順調に進んだ場合、薬剤製造にどのくらいの細胞が必要になるでしょうか。早くからスケーラビリティの高い製造工程を考えておけば、製造を拡大していく作業が楽になります。もっと言えば、臨床試験に入る前の段階からバイオリアクターに移行できるのであれば、長期的な取り組みの準備を整えることも可能なのです。最も安上がりのアプローチとは言えませんが、リソースや製造体制が整っていれば、その後の開発がはるかに容易になります。
WCW: プロセスの早い段階でMSC治療薬の重要な品質特性を同定し、力価試験を開発しておくことが大切です。また、開発者は、細胞培養のスケールアップ方法と、どのスケールにも使える力価試験の開発方法も明確化しておかなければなりません。こうした要因を早めに考え始めておけばおくほど、長期的により充実した状況が生まれます。
ICM: 私の見解では、MSC培養のスケールアップばかりに目を奪われてはいけないと思います。大スケール製造に必要となる大量の培地の製造方法も把握しておかなければなりません。後工程にも配慮し、細胞に対して余計な負担がかからないかどうか確認し、さらに最終的なフィルフィニッシュ(無菌製剤・充填)の手順にも目を配らなければなりません。MSCの場合、プロセス全体の中で慎重な対応が必要な手順が多数あります。
Q:細胞増殖のスケールアップに使える技術には、どのようなものがありますか。
WCW: MSCの培養にはいろいろな方法があります。先に挙げたように、MSCは接着細胞なので、基質に接着しようとする傾向があります。初期に登場した技術の中には、多層型の細胞培養容器など、今も広く使われているものもあります。充填・回収作業用のチュービング付きの閉鎖系用キャップを追加するなど、閉鎖系にする改良が加えられています。MSCの培養には中空糸バイオリアクターも使われています。また、市販の固定床バイオリアクターも、MSCスケールアップの早い段階から採用されています。さらに、すでに述べたように、擬似浮遊と言うべきマイクロキャリアはすでに多くの実績があり、スケールアップの際、培地と試薬の使用がはるかに効率化できます。
TT: 細胞培養やバイオリアクターの技術は絶えず改良されています。特に、プロセスをリアルタイムにモニタリングする技術は、多くの企業が開発競争を繰り広げています。例えば、10年前には乳酸やグルコースの測定は不可能でしたが、今ではどちらも測定できます。企業各社がMSCの大スケール製造用にこうしたツールを開発しているのは心強いことです。
Q:患者用に製造する際、試薬や材料の面で考慮しておくことはありますか。
WCW: 改めて強調しておくと、必ずGMPに準拠した培地と試薬を使うように徹底してください。歴史的には、MSCはFBSで培養されてきました。しかし、FBSは、製造用に最適な製品ではありません。ロット間のばらつきが大きいからです。したがって、製造をスケールアップする際、既知成分を使った限定培地や製品を使うことが、バッチ間のばらつきを低減させる一助となり、非常に重要なことと言えます。
SM: FBSには、規制面の懸念もあります。例えば、FBSの培地で増殖したMSCを患者に投与する場合、血清の供給源の正当性を立証する必要があります。FBSの供給源の中には、狂牛病関連など、規制機関が安全面の懸念を理由に拒絶することから、使用できないものもあります。このため、多くの培地メーカーは、無血清培地や完全合成培地を開発しています。
開発者の観点から言えば、MSCは異なる組織源から単離しており、単離プロトコールも異なるため、培地の試験は実施すべきです。すべての培地タイプでうまくいくとは限らないため、ニーズに合う培地を見つけるためにも試験が欠かせません。さらに、品質検査証明書(COA)の発行経験があり、培地製造に用いた原料の供給源について正当性を立証できる信頼のおける調達先を選びたいものです。GMPグレードの培地か、早期相向けに少なくともGMPグレードに準ずる培地であることを保証してくれる確かな調達先と協力関係を築くことが極めて重要です。規制上の懸念にも対処できる実績と仕様を持つ調達先である必要があります。これは、臨床応用に移る際に重要な課題となります。CMC関連文書を規制当局に提出する際、こうした課題をすべて解決する必要があるからです。
もう1つ考えておきたいポイントは、コストです。このような培地や試薬は、非常に高価なものもあり、原価を押し上げる要因となります。そこで、商用化を成功に導くために、この問題に取り組み、コストを最小限に抑える道を探る必要があります。広範囲に感染を起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のように、多くの人々が治療薬を求める疾患の治療をめざす場合に、コストの問題は特に重大です。
TT: 商用化に進む際に、可能であれば、培地の主要成分それぞれについて、複数の調達先を確保しておくことがとても大切です。また、製剤の保管方法も、バッグなのかバイアルなのか検討しておくことが重要です。
ICM: MSC製造段階では、MSC自体だけでなく、増殖・保存用の培地もあります。最終製剤に残存する不純物にも注意が必要です。残存する不純物の問題に関しては、GMP準拠の専用品を使えば状況は有利です。臨床試験中の製品の安全性確保も重要です。
Q:投与、送達方法、送達部位に関して、特に注意を要する点は何でしょうか。
TT: これまでにMSCが検討されているあらゆる適応症を考えると、多種多様な投与プロセスがあると想像できます。基本的には、個々の疾患適応症との関連でMSCの生物学的特性を理解することに尽きます。例えば、さまざまなCNS適応症がある中で、これまでに研究者の間では、脳への直接投与、髄腔内投与、脊髄内投与が検討されてきました。中でも、髄腔内投与が最も広く用いられています。
投与量については、MSC領域では大きな課題となっています。ほとんどの研究は、マウスやラットなどの小動物で行われており、その投与量をヒトに合わせて調整することは困難を極めます。私は幸運なことにブタを使って心臓の研究を実施したことがあります。ヒトの心臓とほぼ同じ大きさですから、投与計画の検討ははるかに容易でした。しかし、マウスやラットで研究をしていて、ヒトに移る場合、最初のヒト臨床試験で用量範囲を評価し、安全性を確立するとともに薬効が得られる至適用量を決定しなければなりません。
ICM: MSCは治療薬ですから、患者ごとに至適用量を決定する必要があります。臨床試験の最初の段階では、さまざまな用量を検討し、疾患ごとの治療に最適な用量を見つけ出すことが大切です。
SM: 細胞治療薬の開発者は、最終的に治療薬を送達する現場の人々とのコミュニケーションを怠ってはなりません。それがきっかけで、最終製品である細胞治療薬の製剤・投与方法が変わってくるからです。患者に治療薬を投与して終わりではありません。実際、多くの課題が残っています。バッグがいいのか、洗浄または希釈する必要のあるバイアルにするのか、重力充填か、輸液ポンプを使うのか、といった具合です。
こうした要素が複雑に絡み合っているため、かつては一般的だった生細胞の使用を敬遠する動きが多く見られるようになりました。商用製造を検討しているとか、治療する患者数を拡大するとか、敗血症、ARDS、COVID-19など緊急疾患に対処するといった場合、細胞の増殖から、処理、凍結保存、融解まで何週間もかけているわけにはいきません。即座に対応できる標準化プロトコールが必要です。
病院のような環境であれば、一緒に動いてくれる臨床医やコーディネーターがいますから、そのようなスタッフのほとんどに適応可能なプロトコールでなくてはなりません。臨床試験に入れば、コンプライアンス不良や細胞生存率の低下、力価の低下といった問題があると困ります。こうした要因は、治験結果に影響を及ぼし、ゆくゆくは薬剤が次のステージに進むかどうかまで左右します。この課題には、アカデミアの治験でも企業の治験でも遭遇しています。さまざまな角度から問題を検討し、臨床チームと緊密に対応することが重要です。
WCW: MSC自体の生物学的特性や、治療効果を誘発する作用機序の話に少し立ち返ってみたいと思います。MSCの送達方法を考える場合、一過性効果を狙うのか、それとも長期的な治療効果を狙うのかを把握しておく必要があります。
例えば、ハンチントン病のための脳由来神経栄養因子などの成長因子をMSCが分泌するように改変した場合、MSCを投与した部位に長く残存させたいと考えるはずです。この場合はMSCをバイオ工場と考えることができます。しかし、この細胞を使って、免疫調節効果などの一過性効果を発揮させるのであれば、捉え方は変わります。これは、静脈注射か直接投与かを判断する際に、考慮すべき重要なポイントになります。
さらに、スキャフォールド(足場)を検討することも大切です。スキャフォールドに播種したMSCにしばらくそのまま持続してほしいけれど、必ずしも増殖しなくていいのであれば、細胞の担体となり、身体から栄養素を受け取ることができるスキャフォールドを選択する必要があります。
最後に、もう1つ課題を挙げるとすれば、細胞の投与先となる環境です。脳などの低酸素環境に曝露するのか、それとも栄養素・酸素が得られる環境なのかで違ってきます。
基本的には、作用機序や、MSCに治療効果を誘発させる方法を理解することが前提になるのです。
Q:最終的なフィル・フィニッシュ(無菌充填・包装)や保管、CQA(重要品質特性)、アッセイ開発に関して最重要ポイントは何でしょうか。
ICM: MSC製剤は新鮮ですから、フィル・フィニッシュ方式だけでなく、上流・下流のあらゆるステップで無菌プロセスが確立されるように注意を払わなければなりません。プロセス全体の無菌性を維持することが必須であり、フィル・フィニッシュはあくまでも最後のステップなのです。もちろん、閉鎖系の採用は最良の選択肢ですが、現時点では、閉鎖系でフィル・フィニッシュを実行できる装置が限られています。凍結保護剤にジメチルスルホキシドを使って細胞を保存しているため、一連のステップでは時間も大切な要素です。
フィル・フィニッシュ段階で、バッグやバイアルが異なる場合、特に容積濃度に関して、一貫性を確保することも重要なポイントです。そのためには、凍結保存培地の適切な組成と、この手順のために明確に規定された標準プロトコールや標準作業手順書が欠かせません。フィル・フィニッシュの次の重要ステップが凍結保存です。細胞を液体窒素に凍結保存しなければならないからです。このプロセスで最も避けたい問題のひとつに氷晶形成があります。すべてを考慮すると、私の考えでは、MSC製剤製造で最大の課題はフィル・フィニッシュプロセスです。
保管に関しては、MSCは長期的に使用する製剤ですから、プロセスの安定性を徹底しなければなりません。凍結保存後の細胞生存率と回収率の一貫性を確保するためには、安定性試験が欠かせません。凍結保存液と温度比にも配慮します。どちらもフィル・フィニッシュの段階で非常に重要になります。
WCW: フィル・フィニッシュでもう1つ考えておきたいのは、取り扱い量です。製剤のスケーリングに用いる容器にもよりますが、スケーリング方式によって物理量が変わってきます。この点は、特に容量削減を計画していて、無菌環境を維持しながら閉鎖系で同プロセスを実行する場合に、重要な検討事項となります。
SM: 治療薬開発の際には、規制当局から安定性が問われるため、安定性調査プログラムを立ち上げることも大切です。仕様書と、機能、同一性、その他の(FIO)アッセイで製剤の安定性を評価することが重要です。研究室では、複雑な共培養アッセイを用いてさまざまな因子を測定することを考えるかもしれませんが、このアッセイをCDMOやCROに技術移転することは非常に難度が高く、費用も高額になります。
鍵を握るのは、定量測定を行うアッセイの開発です。製剤の力価や仕様に相当するデータ結果が得られるアッセイです。規制要件を満たすことも大事ですが、確実に再現性が高く、標準化されたアッセイを開発することも重要です。このアッセイは、製剤リリースのためだけでなく、安定性調査プログラムのためにも必要です。
TT: 追加の試験が必要になった場合に備えて、手元に十分な量の製剤を確保しておくことも大切です。自分が想定するよりも多めに確保しておくことをお勧めします。
Q:今後数年間に、この領域で最も期待していることは何ですか。
TT: 現在進んでいるiPS細胞由来MSCの臨床試験に期待しています。大変注目すべき領域になると思います。遺伝子改変MSCも、治療効果の改善に重要な役割を果たします。
WCW: こうした治療薬がもっと普及することに大きな期待をかけています。アクセシビリティの観点から言えば、製造コストの低減が重要です。この領域では、細胞製造のコストを引き下げようとさまざまな取り組みが見られます。このような多様な治療薬の開発や、それを支えている生物学的特性は実に素晴らしいものですが、治療薬に手が届く少数の人々にしか投与できないとすれば、人類にとって素晴らしいソリューションとは言えませんから。
ICM: 私はエクソソームを利用した製剤の可能性に大きな期待をかけています。多くの場合、エクソソームは、余った副生成物のように考えられていましたが、今ではひとつの製造プロセスからMSC製剤とエクソソームの両方が利用できるようになりました。MSCやエクソソームを使う重要なポイントは、現時点で治療法のない疾患に対して治療の可能性があることであり、たくさんの患者に希望をもたらします。
SM: 米国で初のMSC治療薬が承認されたのを受け、多くのことが期待されています。20年前にMSC領域に足を踏み入れたときには、MSC専用の培地はほとんどありませんでした。今では、多様な目的に応じて豊富な選択肢があり、MSC製造のスケールアップと臨床への橋渡し支援に向けて、さまざまなシステムに投資意欲を見せる企業が増えています。モノクローナル抗体生産用のバイオリアクターの開発が進んでいるので、MSC技術による課題解決や新たな知見の獲得に追い風となるはずです。
Reference
Reference
1. Farmer DL. Cellular therapy for in utero repair of myelomeningocele—the CuRe trial (CuRe). Oct 1, 2024; ClinicalTrials.gov. https://clinicaltrials.gov/study/NCT04652908.
Biographies
Biographies
Irana Coletti Malaspina is currently a Field Application Scientist—Latin America for Corning Life Sciences. She has more than 9 years of experience in end-to-end MSC manufacturing for advanced therapy medicinal products.
Irana Coletti Malaspina, Field Application Scientist—Latin America, Corning Life Sciences, São Paulo, Brazil
Shirley Mei has over 20 years of experience in both industry and academia. She is currently a Scientific Investigator in the Regenerative Medicine Program at the Ottawa Hospital Research Institute, where her lab develops and optimizes MSC expansion protocols and investigates how MSCs interact with immune cells.
Shirley Mei, Scientific Investigator, Regenerative Medicine Program, Ottawa Hospital Research Institute, Ottowa, ON, CAN
Tony Ting is the CSO for Kiji Therapeutics, which is developing off-the-shelf engineered cell therapies. He has over 30 years of academic and industry experience in translational science and global regulatory filing including more than 20 years in the cell therapy field, at companies including Takeda, Bone Therapeutics, and Athersys.
Tony Ting, CSO, Kiji Therapeutics, Cleveland, OH, USA
Whitney Cary Wilson is a Field Application Scientist at Corning Life Sciences. Previously, Whitney spent 12 years at the UC Davis Institute for Regenerative Cures and was Director of the UC Davis Stem Cell Core. Now, she works with process development groups to optimize production capabilities and cellular scale-up conditions.
Whitney Cary Wilson, Field Application Scientist, Corning Life Sciences, Sacramento, CA, USA
AUTHORSHIP & CONFLICT OF INTEREST
Contributions: The named authors take responsibility for the integrity of the work as a whole, and have given their approval for this version to be published.
Acknowledgements: None.
Disclosure and potential conflicts of interest: The authors have no conflicts of interest.
Funding declaration: Tony Ting has received consulting fees from Healios KK and Steminent BioTherapeutics.
ARTICLE & COPYRIGHT INFORMATION
Copyright: Published by Cell & Gene Therapy Insights under Creative Commons License Deed CC BY NC ND 4.0 which allows anyone to copy, distribute, and transmit the article provided it is properly attributed in the manner specified below. No commercial use without permission.
Attribution: Copyright © 2025 Corning Incorporated. Published by Cell & Gene Therapy Insights under Creative Commons License Deed CC BY NC ND 4.0.
Article source: This article was based on an expert roundtable.
Expert Roundtable recorded: Feb 13, 2025.
Revised manuscript received: Mar 19, 2025.
Publication date: Mar 28, 2025.