Top Tips for Handling Corning Matrigel Matrix

Corning マトリゲル基底膜マトリックスは、35年以上にわたって高い信頼を集め、細胞生物学の先端研究を支えています。文献でのマトリゲル基底膜マトリックスの引用回数はこれまでに13,000回以上を数え、今も増加の一途をたどっています。研究現場では、マウスEHS肉腫細胞から再構成されたこの細胞外基質(ECM)について、常に新たなアプリケーションが見つかっています。この組成は、代謝研究や毒性研究に用いられていることに加え、いくつかのタイプの腫瘍細胞浸潤アッセイの開発、さらに最近ではオルガノイドモデルの重要要素として使われているほか、数えきれないほど多くの目的に利用されています。

このマトリゲル基底膜マトリックスを最大限に活用する戦略がいくつかあります。そこで、さまざまなアプリケーションでのマトリゲル基底膜マトリックスの取り扱い方法、そのためのベストプラクティス、ECMとして最も高い信頼性と普及率を獲得し続けている理由について考察します。

適切なマトリゲル組成の選択

標準的な組成のマトリゲル(8〜12 mg/mL)は、上皮細胞などの極性細胞の培養に適しています。また、肝細胞、ニューロン、ベータ島細胞、乳腺上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞など、多くの細胞タイプの分化促進にも使用されます。高濃度マトリゲル(18〜22 mg/mL)は、基質硬度やスキャフォールドの完全性が高くなります。このため、マウスのプラグアッセイなど、in vivoの細胞送達アプリケーションに適しています。

比色アッセイや蛍光アッセイのほか、エストロゲン様作用が懸念される場合には、フェノールレッドフリーのマトリゲル基底膜マトリックスが、高度に定義された基底膜調製が望ましいアプリケーションには、増殖因子を低減したグロースファクターリデューストタイプがお勧めです。

マトリゲル基底膜マトリックスのヒトES細胞最適化組成は、ヒト胚性幹細胞やヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)のフィーダーフリー培養に不可欠な再現性や一貫性を確保します。

アプリケーションやスケールに応じて、マトリゲル基底膜マトリックスをコーティング済みの培養容器を検討してもいいでしょう。こうした容器には、35〜100 mmのBioCoatディッシュ6〜96ウェルのBioCoatプレート、96ウェルまたは384ウェルのマトリゲル基底膜マトリックス 3Dプレートがあり、ハイスループット環境のスフェロイドモデルやオルガノイドモデルをサポートします。マトリゲル基底膜マトリックスを使った半自動化実験向けに、より汎用性の高い選択肢として、Corning Matribot バイオプリンターがあります。

保存時や使用時のマトリゲル基底膜マトリックスの取り扱い方法

マトリゲル基底膜マトリックスは、霜取り機能のないフリーザーを使い、−20°Cで保存します。温度変動を最小限に抑えるためには、フリーザーのドアの内側や頻繁に開け閉めするドアの近く、霜取り機能付きフリーザーに保存してはいけません。

マトリゲル基底膜マトリックスの取り扱いについてはさまざまなコツがありますが、最も重要なのは、マトリゲル基底膜マトリックスが10℃でゲル化を始め、22℃を上回ると急速にゲル化する点を把握しておくことです。このため、マトリゲル基底膜マトリックスを取り扱うときは、常に氷上に置くようにします。

マトリゲル基底膜マトリックスの融解の際は、バイアルを氷の中に挿した状態で2°C〜8°Cの環境に一晩置きます。融解中は常にバイアルが氷で覆われるように、たっぷり氷を用意します。冷水や溶けた氷は使用しません。アイスバケットに蓋をしてから、低温室か冷蔵庫内の奥に置き、温度変化を最小限に抑えます。マトリゲル基底膜マトリックスに触れることになるピペットチップや実験器具はすべて予冷しておきます。

標準濃度のマトリゲル基底膜マトリックスは、4°C〜10°Cで粘性のある液状となるため、ポジティブディスプレイスメント式のピペットやシリンジで正確に測定します。この方法は、特に高粘性で不透明な高濃度マトリゲル基底膜マトリックスを扱う際に極めて重要です。標準濃度のマトリゲル基底膜マトリックスは透明です。凍結状態または融解状態のマトリゲル基底膜マトリックスのバイアルは、淡黄色から暗赤色の色を呈することがあります。これは、二酸化炭素が炭酸水素塩緩衝液やフェノールレッド(含有する場合)と反応した際に見られます。こうした色変化は正常なもので、5%のCO2で平衡化すると無色になります。

融解したら、氷の中で回しながら混和して、均一にします。品質証明書に記載されているロット固有のタンパク質濃度を基に、個々のアプリケーションに用いる適切な分量を計算します。初回のマトリゲル基底膜マトリックス融解時に、1回で使い切る分量に小分けし、凍結融解の繰り返しは避けます。ポリプロピレンかその他のフリーザー対応チューブを使って−70°C〜−20°Cで保管します。有効期限に注意します。有効期限は製造日から2年です。

マトリゲル基底膜マトリックスによる表面コーティング

マトリゲル基底膜マトリックスを3 mg/mL以上で使用すると、堅固なゲルが形成されます。in vivoのアプリケーションの場合、マトリゲル基底膜マトリックスを4 mg/mL未満の最終濃度に希釈しないでください。細胞の接着・増殖のアプリケーション、例えばヒト多能性幹細胞(hPSC)、ニューロン、心筋細胞などの場合、一般的にはマトリゲル基底膜マトリックスの薄層(0.5 mm)が推奨されます。

Thin gel法の場合は、少なくとも50 µL/cm2で表面をコーティングします。リングアッセイや細胞浸潤研究など、3D細胞培養アプリケーションの場合、細胞をマトリゲル基底膜マトリックスの層(1 mm)内部で培養することも可能です。Thick gel法では、少なくとも150〜200 µL/cm2で表面をコーティングします。非常に低濃度に希釈(3 mg/mL未満)すると、ゲル化しないタンパク質の薄層が生じ、細胞接着には有用ですが、分化研究にはそれほどの効果は期待できません。内皮細胞の血管形成、ES/iPS細胞分化の阻止または誘導、オルガノイド培養など、アプリケーションごとのマトリゲル基底膜マトリックスを利用する場合のヒントについては、こちらのFAQ(よくある質問と回答)をご覧ください。

マトリゲル基底膜マトリックスを希釈する際には、氷冷した無血清培地やPBS(水は不可)の溶液に加えて希釈します。回して混和するか、ピペッティングをして静かに混ぜます。次に、容器を氷上、もしくは氷上やCorning CoolBox™の上に置いたCorning CoolRack®やThermalTray™の上に置いてコーティングします。プロトコールは目的のアプリケーションによって異なりますが、一般的には容器を37°Cで30分間インキュベートするとゲル化します。

マトリゲル基底膜マトリックスをコーティングしたプレートは、できる限りコーティングした当日に使用してください。当日に使用しない場合、無血清培地を添加したコーティング済みプレートを37°Cのインキュベーターで最大1週間保管できます。あるいは、コーティング済みプレートと無血清培地の層をパラフィルムで密封し、2°C〜8°Cで保管することも可能です。

天然、合成、ミメティックの各代替品を評価

他の生物学的ECM製品も同様の特性を持つ可能性がありますが、多様な細胞培養アプリケーションで30年にわたってマトリゲルが積み重ねてきた確かな実績に匹敵する製品はありません。マトリゲル基底膜マトリックスは、信頼の品質で最も広く利用されているECMです。

しかし、一部のアプリケーションでは、さらに明確な定義のマトリックスが有効な場合もあります。”The Corning Guide to Surface Selection by Cell Type” (およそ400点の参考文献一覧付き)では、特定細胞タイプで確かな成果を上げているECMタンパク質(天然、合成、ミメティック)を調べることができます。

ほかにもさまざまなヒントや知見があります。『マトリゲル基底膜マトリックス完全ガイド』(ダウンロード提供)をご覧いただくか、YouTubeのコーニング ライフサイエンスチャンネルにあるプレイリスト「Best Practices for Matrigel matrix(マトリゲル基底膜マトリックスのベストプラクティス集)」をご覧ください。