Gene Therapy Process Development | Corning

遺伝子治療のスケールアップに必要な条件となるプラットフォームや培地、培養表面、培養容器、各種機器を考えると、ウイルスベクター製造プロセスの開発には、数々の課題がつきものです。

それだけに、遺伝子治療法のスケールアップやスケールアウトの際に研究現場で見落としがちなポイントがいくつかあり、その結果としてプロジェクト自体が後退するようなことになるのも驚くに当たりません。いわばよくある落とし穴にもかかわらず、ほとんどの研究者が手遅れになるまで問題を認識していないのです。

コーニング ライフサイエンスのお客様や社内のアプリケーションサイエンティストを束ねる立場のJohn Yoshi Shyu博士は、バイオプロセスアプリケーションに小さな問題がたった1つあるだけでも、ウイルスベクター製造の予測と実際の結果に大きなギャップが生じかねないことを、身をもって知っています。博士は、遺伝子治療プロセスのスケールについて知っておくべき4つの重要なポイントを指摘します。

1. スケールアップは単なる足し算ではない

セダンの乗用車を思い浮かべてください。タイヤは4輪で、定員は5人です。定員とタイヤの関係が比例だとすると、タイヤを18輪にすれば22人ほどの乗員を運べる計算になります。しかし、タイヤの数が4倍になったからと言って、本当に乗員も4倍になるのでしょうか。

それは誤りです。例えば大型車なら、はるかに多くの人を乗せることができます。研究室でも、遺伝子治療に関して、これと同じ理屈で誤って対応する場面がたびたび見られるとShyu博士は言います。

「研究者は、小スケールで最適化したものは、そのまま比例的にスケールアップできると考えがちです。しかし、現実には、小スケールで最適化したものをそのままスケールアップできませんし、システムの再検証なしに成功することもありません。」とShyu博士は述べています。

再検証してみると、思っていたよりも高密度の細胞増殖が可能になり、短期・長期の製造計画を増強できます。ただし、Shyu博士によれば、培養促進につながる適切な条件を確実に整える必要があります。

その際、極めて重要になるのが、ガス交換です。

2. ガス交換には、計算されたバランスが必要

スケールアップすると、立方空間当たりの細胞数を増やすことができます。しかし、ここで注意が必要だとShyu博士は言います。ガス交換を完璧に行わなければならないからです。

「教室に10人ならともかく、100人を詰め込むとなると、それだけ多くの人々に空気が十分に行き渡るように、空調設備を確実に機能させなければなりません。ウイルスベクターによるスケールアップの際、この考え方が誤解されやすいのです。生物学的に最良の結果を求めているだけでなく、既存のガス供給装置が対応していないような速度で細胞を培養しようとしているのです。」とShyu博士は述べています。

ガス交換の最適化は、適切な条件が整った細胞培養培地から始まります。

「お客様が抱える潜在的な問題へ対処する際、培地選定が最大の課題になります。」とShyu博士は言います。

選定に当たって、お客様が取引しているサプライヤーが現場での技術サポートに対応しているかどうかが非常に重要です。

「大抵の場合、研究の数学的側面を理解しているかどうかが大切になってきます。これこそ、お客様の研究が円滑に進むように、私たちがお手伝いできる点なのです。」とShyu博士は述べます。

3. 適応には時間がかかる

時間という変数を適切に考慮しなければ、いかなるプロセスも期待どおりの結果は出せません。これは、アデノ随伴ウイルス(AAV)の研究に携わる研究者が特に注意しなければならないことです。新しいツールや技術を活かしてワークフローの計画策定や適応に取り組む必要があるからです。

「これまでとは違う新技術を導入する場合、細胞が新たな環境に適応し、増殖速度を調整する時間を確保する必要があります。栄養、循環、培地選定といった要因全てが所要時間を左右します。例えば、研究室としては培地を減らしてコストを抑えようとするものの、それが原因で細胞にストレスが加わり、ウイルスベクターの産生量が減少するおそれがあり、回り回って生産効率を落とすことになります。」とShyu博士は述べています。 

「結論としては、ガス交換や細胞増殖のタイミングといった数学的な問題に加え、物理的な問題も抱えることになります。スケールアップすればするほど、複雑になるのです。 」とShyu博士は付け加えます。

4. トランスフェクションの失敗は製造自体の失敗に

トランスフェクションは、ウイルスベクター製造の重要なプロセスでありながら、プロセス開発では見過ごされがちです。そこで、現場のノウハウ豊富なパートナーと手を組み、ワークフロー全体を通じて製品選定について、たとえ取り扱いのない製品であってもアドバイスをもらえる体制を築くことが大切です。

「コーニングは、トランスフェクション試薬を販売していませんが、この研究現場を担当するスタッフ全員が専門的な訓練を受けた経験豊富な研究者であり、蓄積したノウハウを常に提供しています。これは私たちのサポート活動のほんの一部にすぎません。製造目標達成に向けたプロセスを整えるうえで、細胞に導入したいトランスフェクション試薬と必要なDNA複合体の適切なバランスの取り方がポイントになります。そこで、そのような専門知識を持った助言者を確保することが大切です。」とShyu博士は言います。

「私たちはお客様の製造プロセス全体に注目します。すべてが適切に整ったうえで成功を収めていただくためのお手伝いをしたいと考えています。」とShyu博士は締めくくります。