接着培養での灌流細胞培養システムの利用について考える

灌流細胞培養プロセスは、in vivo条件での自然な体液の流れを模倣します。新鮮な培地が流入し、使用済み培地や副生成物が排出されます。ローラーボトルや多層型容器などの静置培養方式とは異なり、灌流細胞培養は、設置スペースと変動性を最小限に抑え、結果として担当する人員数も抑えつつ、大スケールの接着培養を実現できます。

こうした利点のおかげで、研究者にとっては、細胞・遺伝子治療領域で高まっているバイオプロセス需要に対応しやすくなります。特に、費用対効果を損なわずに前臨床試験から後期臨床試験まで、研究のスケール変更の可能性を模索している研究現場にはメリットがあります。

しかし、Corning® CellCube®システムのような灌流環境に切り替えるタイミングは、どう判断すればいいのでしょうか。そこでコーニングのシニアバイオプロセスアプリケーションサイエンティストであるAnn Rossi Bilodeau博士と、アシスタントバイオプロセスプロダクトラインマネージャーであるJacqueline Dokko氏に、研究者が押さえておくべき点を聞いてみました。

接着細胞培養用で最も人気のある灌流アプリケーションは何ですか。

Bilodeau:灌流システムが理想的なアプリケーションは多岐に渡ります。しかし、一般的には、細胞治療、動物用・ヒト用ワクチン、ウイルスベクターなど、大量の細胞培養が必要なアプリケーションであれば、どれでも灌流システムを利用できます。

Dokko:CellCubeに限って言えば、占有面積に対する細胞培養表面積比が高く、圧倒的な費用対効果を発揮するプラットフォームであり、とりわけコストに非常に敏感なワクチン市場では、魅力的な選択肢になります。COVID-19用ワクチンでも関心が集まっています。

接着培養の場合、静置培養方式よりも灌流システムの方が優れている理由はどこにあるのですか。

Bilodeau:そうですね、さまざまなワクチンがローラーボトルで製造されていますが、これは非常に安上がりだからです。とはいえ、ボトルを1本1本処理するため非常に手間がかかるうえ、かなりのスペースを占有します。例えば、CellCube 100は、ローラーボトル100本分に相当します。しかもローラーボトルの場合、それだけの数を収容するラックや恒温室が必要です。すでにローラーボトルのプラットフォームを運用しているお客様は別として、多くのお客様の場合、大スケールでローラーボトルを収容可能な施設も、これを担当できるだけの十分な人員も持ち合わせていません。実際、スケールを拡大していくと、ある時点で灌流以外の選択肢を使うのは非現実的と言えるレベルになります。

Dokko:しかも、CellCubeのような灌流システムは、表面積がコンパクトなため、省スペース性も備えています。各プレートの両面に細胞が接着できるため、キューブ内全体で非常に高密度の培養環境を確保できます。また、灌流システムはバイオリアクターから十分に馴化された培地が常に流入するため、細胞自体にとってもメリットがあります。

灌流環境にはバイオリアクターを使う必要がありますか。

Bilodeau:必要ですが、その理由については多くの方々が誤解されているようです。従来、バイオリアクターは浮遊細胞培養で使われているのですが、CellCubeのような接着培養プラットフォームで必要なバイオリアクターとコントローラーは、細胞の攪拌や懸濁が目的ではありません。灌流による接着培養では、バイオリアクターとコントローラーは培地の馴化に使用します。例えば、pHや溶存酸素を制御して、最適な増殖につながるよう培養状態を微調整する作業も含まれます。

バイオリアクターとコントローラーはどれを使えばいいでしょうか。

Bilodeau:CellCubeの場合、シングルユースのバイオリアクターから、使用のたびに滅菌処理が必要なガラス製バイオリアクターに至るまで、ほぼすべてのバイオリアクターに適合可能な柔軟性があります。バイオリアクターとコントローラーのシステムは、好みや予算、システムの設置スペースで選んでもらって構いません。

閉鎖系を灌流装置と一緒に使えますか。

Dokko:はい、特に米国では多く見られる使い方です。標準化や無菌性維持が容易で、コンタミネーションリスクを最小限に抑えられるとあって、閉鎖系への移行に踏み切る研究者が増えています。CellCubeとの組み合わせとして閉鎖系は理想的です。バイオリアクターとキューブの接続のほうがはるかに容易に管理でき、個別に熱溶着する必要はありません。

高流量灌流システムへの移行に当たって、ほかに考慮すべき点はありますか。

Bilodeau:細胞の増殖条件や、細胞培養の最終目的をしっかりと把握しておくことが大切です。コントローラーとバイオリアクターを使えばあらゆるものが制御対象になりますから、最初に酸素、pHなどの条件について適切なパラメーターが設定されているか確認しておかなければなりません。そのためには多少の手間がかかり、トラブルシューティングも必要になります。しかし、ひとたびパラメーターの微調整が完了すれば、システムは順調に動き始めます。

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