コンタミネーションのリスクを最小限に抑え、培養物を守るには

このほど、「コンタミネーションのリスクを最小限に抑え、大切な培養物を守るには」をテーマに、「Ask the Expert(専門家に聞く)」というセッションを開催しました。研究現場から、プロセス開発の現場、バイオマニュファクチャリングの現場に至るまで、実験室や細胞培養のコンタミネーションは深刻なリスクです。ひとたびコンタミネーションが発生すれば、細胞培養の成果や実験結果は損なわれ、実験を担っている貴重なリソースが無駄になり、最終的には実験自体の信頼性にまで傷がつきかねません。バイオマニュファクチャリングでも、コンタミネーションはバッチ失敗の大きな原因の1つとされているため、重大な懸念となっています。

ところが困ったことに、コンタミネーションの脅威は後を絶たないのが実情です。コンタミネーションは、人間の関与、感染培養物とのクロスコンタミネーション、未熟な実験テクニック、汚染原料など、さまざまな要素が原因となります。しかも、コンタミネーションは必ずしも簡単に検出できるとは限りません。このため、問題が発覚する前に、いくつもの培養物にコンタミネーションが広がっている恐れもあります。

コンタミネーションは至るところに潜んでいるだけに、貴重な培養物をどう守ればいいのかと途方にくれるかもしれません。しかし、心配は無用。私たちがお手伝いします。今回の「Ask the Expert」セッションでは、専門家の方々を招き、コンタミネーションやリスク最小化に関する疑問に回答していただきました。また、原料検査や工程内検査戦略など、汚染源の特定・除去について議論していただきました。さらに、コンタミネーションの防止法や汚染された培養物の救出法、抗生物質利用にも言及されています。

Elisabetta Difilippo博士:コーニング ライフサイエンスのEMEA地域担当サイエンティフィックサポートスペシャリスト。コーニング ライフサイエンスが扱う製品やアプリケーションについての問い合わせ対応支援のほか、製品トレーニングも担当。医薬品化学・技術専攻後、食品化学で博士号を取得。コーニング勤務歴は4年。

Eva Nokes博士:コーニング ライフサイエンスの北米地域担当サイエンティフィックサポートグループのマネージャー。ブランダイス大学で分子細胞生物学の博士号を取得。製品選定、アプリケーション支援、トラブルシューティングの面で顧客のサポートに当たり、コーニング ライフサイエンスのポートフォリオを支援。コーニング勤務歴は5年。

マイコプラズマのコンタミネーションはどうすれば発見できますか。

マイコプラズマのコンタミネーションは、細胞の挙動や形態、機能に影響を及ぼしかねないだけに、確かに、細胞培養プロジェクト中にはチェックしておきたい重要因子です。また論文査読側からも、マイコプラズマ検査結果の提出を求められることがあります(例:Reporting standards and availability of data, materials, code and protocols)。幸い、マイコプラズマの検出であれば、簡便なDNA蛍光染色法やPCR法によるマイコプラズマ検査があります。研究室で手軽に実施できるほか、外部機関にサンプルを送って検査を委託することも可能です。

私たちのグループでは、常に無菌操作と新しい培地の使用を心がけていますが、それでも培地の濁りやpHの低下といった、細菌のコンタミネーションが発生します。いったい何が原因なのでしょうか。

キャビネットやインキュベーターはさまざまなメンバーや研究グループの共用になっていることも多く、これらも汚染源になりやすいと言えます。このため、定期的なメンテナンスや清掃が大切です。インキュベーターは月に1回、リゾールと70%エタノールで清掃し、棚板はオートクレーブで滅菌します。加湿トレイは頻繁に洗浄(オートクレーブ滅菌、蒸留水使用)し、水がこぼれたときはすぐに清掃します。フード内は70%エタノールで毎日清掃し、月に1度は10%の漂白剤か同等製品で清掃することをお勧めします。

私たちの研究室では、MSC(間葉系幹細胞)を使った実験をしており、培地はメーカーから購入しています。材料や培地のコンタミネーションの可能性がある場合、内部の会議で情報を共有しています。研究室に持ち込まれる培地などの材料について、検査を追加した方がいいでしょうか。だとしたら、おすすめの検査を教えてください。

細胞株や材料のメーカーは、製品出荷前に広範な検査を実施しており、検査内容を記した文書を用意し、滅菌保証レベルを表示しています。注意しておきたいのは、滅菌保証レベル(SAL)がメーカーや製品によって異なる点です。SALは、滅菌処理後、表面にコンタミネーションが存在する製品が1個ある確率を指し、10-nで表示されます。例えば、SALが10-3の場合、製品1,000個のうち、コンタミネーションのある製品が1個ありうる確率であることを意味します。高感受性の細胞やアッセイの場合、培地を使う前にろ過滅菌する方法もあります。一般的にはこれ以上の検査は必要ありません。しかし、もっと厳格な指針を求めている研究室もあり、そのような場合には広範なニーズに応じて検査をカスタマイズする必要があります。そこで、納入製品への検査について、一層の詳細情報や透明性をメーカーに問い合わせていく姿勢が大切です。注:培地や試薬について特に気になる点がある場合は、潜在的な問題としてメーカーに伝え、適切な品質調査を実施してもらうことをお勧めします。

培養物の無菌性検査を実施したいのですが、簡便な方法はなさそうです。エンドトキシン試験に見られるような、迅速に調べられる無菌性検査法をご存知ですか。

典型的な無菌性検査の場合、汚染物質の増殖状況を判定するのに、長期インキュベーション(14日間)が必要です。市販品にはもっと迅速に実施して早めに結果が得られる検査もあり、中には3日で完了するものもあります。しかし、そのような検査法はコーニングでの試験結果がないため、残念ながらその妥当性や性能についてはこの場でコメントすることはできません。また、具体的なニーズに適した試験手順を策定する必要があります。いくつかの検査タイプとそれぞれの考慮事項について比較検討した2015年の総説がありますので、リンクを以下に挙げておきます。

Validation of Rapid Microbiological Methods

インキュベーターで培養できて、培養中は加湿トレイが不要、微生物が生き残ってしまう湿度をなくすような技術はありますか。遠心のステップとクライオバイアルへの凍結保存で移し替えをなくすにはどうすればいいでしょうか。最初の細胞培養容器のまま直接遠心や直接凍結保存が可能で、移し替えの手間が省ける細胞培養技術はあるのでしょうか。

今回のフォーラムで対象としている、総合的な細胞コンタミネーションの範囲からは外れるご質問ですが、喜んでお手伝いさせていただきます。こうした技術固有の質問は、コーニングのスペシャリストのほうが的確にお答えできると思います。カスタマイズしたプロセスに基づくソリューションが見つかるはずです。サイエンティフィックサポートへご相談ください:ScientificSupportJP@corning.com

私たちの研究室では抗生物質の使用をやめていましたが、最近、コンタミネーションが発生した後、新しいラボマネージャーから長期培養の一部に抗生物質を使ってはどうかと助言がありました。これは適切な判断だと思いますか。

抗生物質は、in vitro培養での細菌のコンタミネーションの予防策として広く利用されています。しかし、研究によれば、細胞の遺伝子発現と制御に変化を誘発する可能性があることがわかっています。このため、個々の細胞培養結果への抗生物質の影響について、把握、テスト、評価することが大切です。薬剤が思わぬ形で抗生物質と相互作用する可能性があるため、化合物の試験に当たっては、抗生物質使用を評価しておくといいでしょう。

抗生物質が細胞の遺伝子発現に与える影響については、最初のテスト・評価方法として、RNA次世代シーケンシングやクロマチン免疫沈降シーケンシングが挙げられます。そこで、短期と長期の細胞培養に抗生物質を使用する場合、ケースバイケースで評価することをお勧めします。このトピックについては、以下の文献が参考になります。

Ryu, A.H., Eckalbar, W.L., Kreimer, A. et al. Use antibiotics in cell culture with caution: genome-wide identification of antibiotic-induced changes in gene expression and regulation. Sci Rep 7, 7533 (2017).

GLP(優良試験所規範)を上回るコンタミネーション防止策として何かアドバイスをいただけますか。GLPを完全に満たしていても、依然としてコンタミネーションが発生することがあると思うのですが。

残念ながら、たとえGLPを満たしていても、ときにコンタミネーションは発生します。時折発生するコンタミネーションに対する措置を評価するには、コンタミネーションのタイプとその原因を明確にすることが重要です。コンタミネーションの原因と感染拡大経路は、研究室メンバーに始まり、濾過されていない空気、使用機材に至るまで、非常に多岐に渡ります。試薬やインキュベーター、機材もすべて原因になりうるため、調査が必要です。建物に起因する問題には、空気の質などの例もあります。こちらの文書(CLS-CG-TS-077)で表にまとめられていますので、ご参照ください。この表では、コンタミネーションのタイプ、考えられる原因、トラブルシューティング方法の全体像がつかめます。

汚染された培養物の救出について、ご意見をお聞かせください。先ごろ私たちはマイコプラズマのコンタミネーションを経験し、救出に取り組むべきか、それとも最初からやり直すべきかで議論しています。

これは、リソースと時間次第と言えます。回収後の実験結果を完全に信頼することは難しいかもしれません。また、細胞の回収は、それに伴う手法、培地、人員、機材の面で、時間もリソースも必要になります。結局のところ、そこまでの努力に見合うのかどうか、そして回収した培養細胞のデータは信頼に足るのかどうかに尽きます。最初からやり直せば、1週間かそれ以上の時間が余計に必要になりますが、実験結果は完全に信頼できますし、データも論文に使用できます。一方、貴重な初代細胞や限られたサンプル・試薬の場合、救出を検討してもいいでしょう。

私たちは、Vero細胞を培養しており、コンタミネーションの明らかな徴候は見られませんが、培地の減りが思いのほか早いです。コンタミネーションを検査すべきでしょうか。もし検査が必要であれば、具体的な汚染物質の見当がつかないため、対象範囲の広いおすすめの検査法はありますか。

2つの問題が考えられます。「減り」というのが、培地量の減少ということであれば、蒸発が原因かもしれません。一方、栄養分の枯渇ということであれば、いくつかの原因が考えられます。まずはインキュベーター内のCO2濃度と湿度に問題がないか確認してください。これらの可能性をすべて排除しても、なおコンタミネーションが疑われる場合には、以下に挙げる簡易検査を試してみてください。

  • 細胞の形態:顕微鏡観察
  • 遺伝子プロファイル:PCR検査
  • 細菌:目視による培地の濁りとpH
  • エンドトキシン:LAL(カブトガニ血球抽出物)アッセイ
  • マイコプラズマ:ヘキスト染色

閉鎖系を使用した接着付着性細胞の培養プロセス開発に取り組んでいます。閉鎖系の構築に当たって、コンタミネーションのない培養環境を確立しておきたいのですが、どのような手順で取り組むべきでしょうか。また、培養中の検査は必要でしょうか、それとも回収まで待つべきでしょうか。コンタミネーションの検査は、製造プロセスのどの時点で実施するのがおすすめでしょうか。

例えば医薬品製造プロセスなど、主要アプリケーションには、バイオバーデン制御が必要あるいは不可欠です。

プロセスの初めの段階での原料や培地の無菌試験に加え、以下のような「工程内試験」もお薦めできます。

  1. 継代のたびに無菌試験を実施
  2. 容器(または最終製造段階で使用する大型バイオリアクター)への播種前に実施する、播種材料の無菌試験
  3. シードトレインプロセス(シードトレインプロセス=生産バイオリアクターの播種に十分な数の細胞の作製)用のバックアップ培養確保 (出典:Seed train optimization for suspension cell culture. T. Hernández Rodríguez et al. BMC Proc. 2013; 7(Suppl 6): P9.


一般的には、培養物の少量試料を採取して、トリプチケースソイブロスチューブ(または寒天培地)内に播種します。

この検査は、37°Cと25°Cで14日間実施します。製造工程では14日間に及ぶ検査は現実的ではありませんが、最低24時間の播種材料の無菌検査であれば、現場で評価できます。

さらに、インキュベーターの標準手順に沿ってインキュベーターの無菌性を確保すること以外に、安全キャビネット(BSC)での開放型の操作の場合には、以下のような点がアドバイスできます。

  1. 滅菌済みのラボ手袋を装着後、プロセスに着手する前に寒天平板培地でラボ手袋を直接テスト。
  2. BSC内の環境試験(細胞培養処理中、寒天平板培地をBSC内に開放)。


コーニングには、特定のバイオプロセスや閉鎖系の実験手法に関して経験豊富なフィールドアプリケーションサイエンティストが、多数揃っています。ほかにもアプリケーション固有の疑問点がある場合は、サイエンティフィックサポートにご相談ください:ScientificSupportJP@corning.com

私たちの研究室には細胞凍結保存のプロトコールがあるのですが、コンタミネーションが発生しています。凍結細胞ストックにコンタミネーションが生じる可能性を抑えるチェックリストはありますか。

凍結保存前:

  • まず細胞が可能な限り最良な状態にあることを確認します。対数増殖期の終わり(約90%のコンフルエントな状態)に近づいた培養細胞を選び、回収の24時間前に培地を交換します。微生物コンタミネーションの徴候が見られないか培養細胞を入念に調べます。検査に先立って抗生物質不含培地で培養細胞を増殖し、数代継代しておくと、この検査が促進されます。こうすることにより、仮に隠れた耐性汚染物質(存在するとしてもごく少数)があれば、容易に検出可能なレベルに到達する時間が生まれます。この培養細胞の試料を顕微鏡で観察し、細菌、酵母菌、真菌、マイコプラズマがいないか直接培養法で検査します。
  • マイコプラズマは、目視可能な影響や濁りもないまま培養物内に非常に高濃度(培地1 mL中に最大108個)で存在することがあるため、極めて厄介です。このため、遍在性が高いにもかかわらず目に見えないマイコプラズマによって、すべての動物細胞培養物の20%もの割合にコンタミネーションが発生しています。マイコプラズマの検出には特別な取り組みが必要ですが、存在すれば深刻な影響が出る以上、凍結培養細胞ストックの検査は絶対に欠かせません。
  • 温度の安定化と温度変動の抑制につながるサンプル保冷システムを使用します。コーニングのサンプル保冷と保温システムであれば、氷や電気、バッテリーの有無にかかわらず、一貫性と再現性のある標準化温度制御が可能です。こうしたソリューションでは、温度調節の思わぬ落とし穴を回避してコンタミネーションのリスクを抑え、実験中の試料の冷却・安定化につながります。
    Corning® サンプル保冷と保温システム
  • 専用のクライオバイアルに細胞を保存します。キャップにはいくつかの形態があり、内ネジ式のほか、コンタミネーションを最小限に抑えやすい外ネジ式もあります。

凍結保存中:

  • 液体窒素 (N2(l)) フリーザーであれば、液面上部空間の気相を使って−140°C~−180°Cで保存、または液体窒素に浸漬して−196°C以下で保存できます。気相保存の場合、バイアルやアンプルのキャップの緩みなどが原因で取り出しの際に膨張破損するリスクを大幅に抑えられるため、コンタミネーションの拡大防止にお薦めできます。
  • 凍結保存の詳細をまとめた動物細胞培養の凍結保存ガイドのダウンロードができます。
  • また、培養細胞凍結チェックリストもご覧ください。

私たちの研究室ではまだコンタミネーションが発生したことはありませんが、コンタミネーションが発生した場合に、原因が除去できたかどうかをどのように確認しているのか興味があります。

コンタミネーションが発生した場合に、インキュベーター、ウォーターバス、ドラフトチャンバー(ヒュームフード)、その他の作業スペースを徹底的に清掃し、汚染の可能性のある培地や試薬も変更しているのであれば、汚染源は除去されたものと考えていいでしょう。原因が何だったのか、はっきりとわからずじまいかもしれませんし、必ずしも特定する必要があるわけではありませんが、それから数週間は培養物に目を光らせ、研究室のメンバー全員に安全な処理手順の周知徹底を図る必要があります。ウォーターバスで培地のボトルが倒れても「大丈夫だと思った」とか、急いでいるからと実験用手袋をしない、作業スペースをアルコールスプレーで清掃しない、培地交換中に電話に出るといった行為を見かけることもあります。そして大規模コンタミネーションが発生すれば、こういう行為が原因だったのではないかと疑念を抱き、同じ過ちを繰り返さないことになります。研究室では、ほとんどの研究者が往々にして楽をしようとしますが、まさにそういうことこそ、大きな問題につながるのだと痛感します。コンタミネーション後に清掃をしたのに、それからほどなくして2度目のコンタミネーションに遭遇したとすれば、研究室メンバー全員の再トレーニングが必要です。また、培地、試薬、凍結培養物を1つ残らず調べ直し、原因を確実に特定する必要があります。細胞培養の共用スペースで複数の利用者と実験に取り組む場合、コミュニケーションが欠かせません。

細胞株のコンタミネーション、つまり細胞系譜が正しくない場合に関する質問はまだ出ていないようです。この問題への対処についてお聞かせください。

培養細胞のクロスコンタミネーションは、細胞株が別の細胞株に意図せず混入した結果、混合集団になることを指します。原因は、異なる細胞株で使用した培地の使い回しや共有、機材(バイオセーフティーキャビネット)の共用など、さまざまです。

実験手法:

  • 研究室に持ち込まれる培養物は、検査・チェックが終わるまで、例外なく隔離します。培養開始の最初のステップは、細胞認証で細胞の同一性と種を判定することです。
  • 形態や遺伝子の変異がないか細胞を定期的にチェックします。細胞の同一性と種を判定する細胞認証は、極めて重要です。
  • 実験では、可能な限り、1度に1種の細胞株だけを使用します。
  • 新しい細胞株を層流フードに導入する前と後には、徹底的に清掃します。
  • フード内は、70%のアルコールで毎日清掃し、月に1度は10%の漂白剤か同等製品で清掃します。
  • 細胞株ストックは、液体窒素の液相ではなく、気相に保管します。

出展: Troubleshooting Guide for Cell Culture Contamination CLS-CG-TS-077

同じく参考資料として、コンタミネーション対策ガイドも併せてご覧ください。