Five Fundamental Tips for Cell Harvesting

以下は、2024年1月24日にTechnology Networksに掲載された記事を翻訳したものです。

細胞培養は、さまざまな研究領域や業界で活用されていて、多種多様なアプリケーションがあります。培養中の接着細胞が目的の濃度や発生段階に到達すると、培養容器から剥離し、培地を取り除き、単離する必要があります。このプロセスは「細胞回収」と呼ばれます。これは、回収した細胞の品質や収率に直接影響することから、極めて重要なステップと言えます。

このガイドでは、コーニング ライフサイエンスのシニアサイエンティスト、Hilary Shermanを迎え、細胞培養研究の向上につながる細胞回収に欠かせない5つのポイントを聞きました。

1. 細胞回収に最適な時期とは?

細胞種と、目的のアプリケーションによって異なります。例えば、目的のアプリケーション向けに、できるだけ多くの細胞数の回収をめざしているのでしょうか。細胞が健康な状態にあるかどうか確認したいのでしょうか? 一部の細胞は、容器内で高密度になり過ぎたときに不健康な状態になる「接触阻害現象」に陥ります。こういう事実はぜひとも把握しておきたいものです。その場合、感受性が高くない細胞に比べて、コンフルエントに達する前の段階で回収することが重要です段階で回収することが重要です。

2. 最適な回収試薬の選定法とは?

これも細胞種とアプリケーションによって異なります。頑健な細胞が対象であれば、トリプシンは経済的で効果も高いため、良好な選択肢となります。しかし、非特異的タンパク質切断酵素なので、細胞外基質(ECM)だけでなく、あらゆるタンパク質を分解します。また、膜受容体を破壊してダメージを与え、細胞生存率に影響を及ぼすこともあります。一方、アキュターゼは、特異性の高いタンパク質切断酵素で、ECMを分解しますが、細胞にダメージを与える可能性は低くなります。さらに、細胞種によっては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)も有効です。これは非酵素性の薬剤であり、多くのECMを使った培養物には適していません。細胞が細胞塊を形成しやすいためです。しかし、シングルセルにしたくないiPS細胞を培養する場合、この特性がプラスに働きます。

3. 回収後、遠心分離は必ず必要か?

通常、遠心分離は、単離細胞から回収試薬を除去するために実施します。しかし、手荒いプロセスのため、細胞に損傷を与える可能性があります。そこで個人的には回収後の遠心分離は避けたいと考えています。多くのアプリケーションでは、新鮮な緩衝液での細胞の希釈・再調整の後、少量の酵素試薬や回収試薬が残っていても問題ありません。しかし、回収試薬の除去が不可欠なアプリケーションもあり、その場合は遠心分離が必要になります。例えば、シングルセルのアプリケーションでiPS細胞の回収にアキュターゼを使用する場合、この試薬が次の継代に影響するため、試薬除去に遠心分離が必要です。

4. 細胞凝集を回避するには?

細胞が過剰消化になると、細胞内物質が逸脱して細胞が「粘着性」になるため、過剰消化を避けることが大切です。したがって、トリプシンを使用するときは、インキュベーション時間の最適化が重要です。アキュターゼなどの試薬は、損傷細胞の粘着性のある内部に他の細胞をさらすリスクもなく、ECMを分解できます。ベンゾナーゼなどの試薬を加え、過剰消化された細胞から逸脱したRNAやDNAを分解することも可能です。別の選択肢としては、セルストレーナーで細胞凝集を取り除く方法があります。これが特に重要になるとすれば、シングルセル懸濁液が必要なフローサイトメトリーなどのアプリケーションです。

5. 脱離が難しい細胞を回収するコツ

細胞株の中には、増殖が非常に速く、大量のECMとの超密着結合を形成するものがあり、シングルセル懸濁液を得ることが非常に難しくなります。コツを1つ挙げるとすれば、回収頻度を上げ(2〜3日ごと)、50%コンフルエントの状態を維持することです。もう1つのコツは、カルシウムとマグネシウムを含まないPBS(両イオンが細胞同士の接着を促進するため)に培養細胞を10〜15分予浸してから、トリプシンを添加します。そのうえで、もっと高濃度の試薬を使用してもいいでしょう。トリプシンを始め、TrypLEなど他の酵素は、10倍濃度で購入できます。これを対象の培養細胞に最適な濃度になるまで希釈します。

コーニング細胞培養ソリューションの詳細は、こちらをご覧ください。

 

Hilary Shermanは、コーニング ライフサイエンスのApplications Lab(米国メーン州ケネバンクポート)のシニアサイエンティスト。2005年からコーニングに勤務し、さまざまなアプリケーションを対象に、哺乳類細胞、昆虫細胞、初代細胞、幹細胞、オルガノイドなど多彩な細胞タイプの研究に従事しています。主な職務としては、技術文書の作成のほか、コーニングのセールススタッフとお客様の双方を対象とした技術サポートやトレーニングの実施を担当しています。