培養細胞へのエンドトキシン混入を簡単に防げる5つの対策

エンドトキシンは、ほとんどのグラム陰性菌の外膜で構造的・機能的に重要な役割を担う複雑なリポ多糖です。細菌が活発に増殖しているときには少量が放出され、細菌が死滅すると大量に放出される特徴があり、in vitroの細胞増殖に有害な作用をもたらすことが広く知られています。細胞培養に対するエンドトキシン汚染源としては、ガラス器具洗浄や培地調製に使用する水、市販の培地や血清、培地の組成・添加物、実験室のガラス器具・プラスチック器具などが考えられます。細胞培養でエンドトキシン誘発性の問題が発生しないように対策を講じておけば、実験結果にもっと自信が持てるようになります。本記事では、エンドトキシン汚染のリスクを抑えるベストプラクティスに焦点を当てます。

  1. 高純度水を使用する

    細胞培養を扱う研究室では、培地や溶液の調製のほか、ガラス器具の洗浄にも必ず高純度水を使います。ただし、浄水システムや貯水タンク、これらをつなぐ配管類のメンテナンスが不十分だと、大量のエンドトキシン産生菌が増える温床になりかねないため、培養細胞にエンドトキシン混入の疑いがないか、あるいは実際に混入が発見されないか、絶えず検査することが大切です。検査は、簡単なLAL(カブトガニ血球抽出物)アッセイが利用でき、最近では検出限界が0.001 EU/mL(EUはエンドトキシン単位)という高感度の手法もあります。研究室の水がエンドトキシン発生源であることがわかったものの、すぐに問題を解決できない場合には、培地や基本溶液の調製にノンパイロジェンの注射用水(WFI)を使うことができます。

  2. プレミアムFBSの選定を検討する

    1970年代にLALアッセイが開発されてから、血清中のエンドトキシンに対する認識が大幅に拡大し、当時実施された研究では、検査対象となった111ロットのうち、23%に1 ng/mLを超えるエンドトキシンが混入していることがわかりました1。これを受けて血清メーカーは、それまで以上に徹底した無菌条件下で原料を扱うようになり、現在では多くのメーカーが標準的なFBS製品に加え、高品質で低エンドトキシン(1 ng/mL未満)のFBSも提供しています。すべての培養細胞が標準的なレベルのエンドトキシンで影響を受けるわけではありませんが、エンドトキシンレベルが高いと特定の培養細胞に問題が生じるのではないかと懸念している研究者にとって、プレミアムFBSは賢明な選択と言えます。

  3. エンドトキシン検査済みの培地や添加物かどうか確認する

    標準FBSと同様に、市販の調製済み培地はほとんどがエンドトキシンレベル1 ng/mL未満の証明書付きです。多くの細胞培養では、ここまで低いレベルであればin vitroの細胞増殖に対する有害作用を適切に回避できますが、ろ過後の培地に何かしらの試薬が添加されれば、エンドトキシンの温床になりうる点を忘れてはいけません。実際、前出の研究では、1 Mのアミノ酸溶液に最大50 ng/mLのエンドトキシンが含まれている可能性が示されています。可能な限り、メーカーに製品のエンドトキシンレベルについて確認しておく必要があります。疑わしい場合には、培地に新たな成分を加える前後の両方で、培地のエンドトキシンレベルをLALアッセイで検査します。

    自家調製培地の場合、基本的には培地成分の溶解に使用した水からエンドトキシンレベルを判断し、LALアッセイによる定期的な水質検査を必須にします。この検査の頻度は、主に、実施する研究の性質によって異なります。

  4. ガラス器具は正しいオートクレーブ処理手順を守る

    エンドトキシンは熱安定性に優れているため、標準的な研究室のオートクレーブ手順ではガラス器具からの除去に効果がありません。汚染源となるエンドトキシンを破壊するには、ガラス器具では250℃で30分以上、または180℃で3時間のオートクレーブ処理が必要です。この手順であれば、ガラス器具の滅菌効果も得られます。

  5. 証明書付きのプラスチック器具を使用する

    実験用プラスチック器具は高温で製造されるため、通常、汚染源となるエンドトキシンは除去されますが、その後、組み立てや包装工程で再び汚染される可能性があります。メーカーによるエンドトキシン検査証があり、所定のエンドトキシンレベル以下(通常0.1 EU/mL未満)を示す証明書付きのプラスチック器具を選べば、プラスチック器具が細胞増殖に影響を及ぼすエンドトキシンの汚染源でないと安心できます。
     

エンドトキシンとin vitroの培養細胞との相互作用の機序はまだわからないことが多いとはいえ、エンドトキシンのコンタミネーションが大きな悩みの種になっていることは確かです。エンドトキシンが存在する場合は、間違いなく実験結果の信頼性について一定の疑義が生じます。たとえ培養にエンドトキシンが影響しないとわかっていても、ここで紹介している予防措置を講じておけば、思わぬ事態の回避に役立ちます。

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参考文献

1. Case Gould MG. Endotoxin in Vertebrate Cell Culture: Its Measurement and Significance. In Uses and Standardization of Vertebrate Cell Lines. Tissue Culture Association, Gaithersburg, MD. 1984. pp. 125–136.