3D細胞培養の基礎知識:オルガノイドの凍結保存・培養・測定

3D細胞培養、とりわけオルガノイドを使った研究は魅力にあふれ、大きな可能性を秘めています 。オルガノイドは、臓器の構造や機能をこれまでよりも忠実に模倣し、in vitro環境でミニチュア版in vivo材料を再現できるため、疾患モデリングや創薬に欠かせないツールとされています。

オルガノイドのアプリケーションは、事実上無限の可能性を秘めていますが、2D培養や3Dスフェロイドよりもはるかに複雑になります。もっとも、複雑になるからと言って、この新たな研究領域に飛び込むことに躊躇すべきではありません。オルガノイドの凍結保存や培養、測定については、ヒントや秘訣、ベストプラクティスがいくつかあり、これを駆使すれば3D細胞培養の世界にすぐにでも飛び込むことができます。

オルガノイドの凍結保存

凍結保存の良し悪しで、細胞が長期間生存することもあれば、すぐに死んでしまうこともあります。Nature Protocolsによれば、優れた凍結方法は次の10の基本手順に沿っています。

  1. 凍結用容器を4°Cに冷却します。使用プレートが6ウェルか48ウェルかによりますが、クライオバイアル(クライオチューブ)ごとに少なくとも1つか2つのコンフルエントなウェルを確保します。
  2. 1,000 μLピペットと500 µL〜1,000 µLの基礎培地を用いて、培地をピペッティングして、オルガノイドが含まれる基底膜マトリックスを破壊します。
  3. オルガノイド懸濁液を15 mL遠沈管に移します。
  4. 冷却した基礎培地をオルガノイドに加え、再懸濁を繰り返して基底膜マトリックスを除去します。
  5. 8°C、100×g〜200×gで5分間遠心します。
  6. 上清約2 mLを残して吸引します。オルガノイドが崩壊して単一細胞にならないように注意してください。
  7. オルガノイドに冷却した基礎培地をさらに加えます。
  8. 8°C、200×g〜250×gで5分間遠心します。
  9. 上清をすべて吸引してから、使用プレートが6ウェルか48ウェルかに応じて1ウェルまたは2ウェル当たり500 µLの凍結保存培地で再懸濁します。
  10. 懸濁液を500 µLクライオバイアルに移し、凍結用容器にセットします。すぐに凍結用容器を-80°Cの環境に移します。最低24時間そのままの状態に置いてから、液体窒素タンクに移し、オルガノイドを長期冷凍保存します。

注意:凍結保存用培地には、室温下で細胞に毒性を持つDMSOなどの凍結保護剤(CPA)が含まれています。凍結保存時の細胞生存率を高めるため、細胞回収時に室温下でCPAに過剰に曝露しないようにしてください。

凍結対象は単一細胞ではなく、毎日、成長し複雑化していくオルガノイドだという点に留意しましょう。

コーニング ライフサイエンスのシニア・アプリケーションズ・サイエンティスト、Hilary Sherman氏は、次のように語ります。「凍結時のオルガノイドのサイズは、最終的に解凍する際の回復状態に大きな影響を与えます。一般的には、小さなオルガノイドのほうが凍結融解プロセス後にはるかに高い生存率を示します」

Sherman氏によると「培養物を正しく保存すれば、最大10年もの長期保存が可能です。新たな情報が出てくることを考えると、長期間保存できることは有用性が高く 、実験のメリットにつながります」

「研究者がオルガノイドをこのように長期間保存したいと考える理由はさまざまです。ライブラリーを構築している場合、何年も前に患者から採取した検体を使ってテストしてみたい治療法候補が浮かび上がることもあります。あるいは、ポスドク前に研究に着手した研究者が異動したため、その研究を引き継ぐこともあります」とSherman氏は言います。

オルガノイドの培養

オルガノイドの作製方法はいくつもあります。液滴によるドーム構造で形成する方法や、バイオリアクターを使ってハイスループット用途にスケールアップする方法、パーミアブルサポートと低接着表面のマイクロプレートから形成する方法もあります。どの実験方法にするのかは、実験目的によって異なります。

  • マトリックスドームは、自己完結型の細胞外マトリックスドームに単一の細胞や組織を置くことで、オルガノイドが自己凝集します。大量のオルガノイド材料がない場合や表面積計測の画像スキャンに時間がかかりすぎる点を懸念している場合、この実験方法が適しています。
  • バイオリアクターの場合、細胞外基質で多能性幹細胞を包んでオルガノイドを作製します。大量のオルガノイドをスケールアップする場合や、長期に渡って培養する必要がある場合のハイスループット用途に最適です。
  • パーミアブルサポートと低接着表面マイクロプレートは、気液界面材料や細胞接着を阻害する超低接着表面上のオルガノイドを物理的に支持します。細胞の分化促進やエンドポイントアッセイ実施に最適です。プレコートプレートを使えば、さらに時間を短縮できます。

採用する作製法にもよりますが、早ければわずか6日でオルガノイドを樹立できます。ただし、Sherman氏は、回収の際にできるだけ同等サイズを保つようアドバイスします。

「オルガノイドが壊れると、まったくバラバラのサイズになってしまいます。サイズの一貫性を保つことができれば、その後のアプリケーションでも同じペースで成長させることができます。このようなばらつきを抑える手段の1つとして、重力を生かして重いオルガノイドをチューブの下部に沈ませ、小さなオルガノイドをチューブの上部に留めます。そうすれば、より均一性があって、回収にも適した集団を収集できるようになります」とSherman氏は言います。

オルガノイドの測定

オルガノイドの測定に関しては、重要なポイントが多数あり、正しく理解しておく必要があります。

コーニング ライフサイエンスのサイエンティフィックサポートスペシャリスト、Kyung-A (Katie) Song博士は、次のように説明します。「オルガノイド樹立の判定に当たって、測定すべき要素がいくつかあるのですが、中でも非常に重要な要素がサイズです。ただし、in vitroでは循環系がなく、酸素や栄養の移動も限られているため、オルガノイドが成長できるサイズには限界があります」

「オルガノイドの不規則な形状や無菌状態を維持する難しさを考えると、手作業による測定は容易ではありません。そこで処理プログラムを使えば、バンクを壊すことなく正確な顕微鏡測定が可能になります」

「基本的な顕微鏡カメラさえあれば、オルガノイド培養の画像を撮影し、ImageJなどの無料ソフトウェアで処理できます」とSherman氏は言います。

しかし、Sherman氏によれば、そのようなサービスの利用も、膨大な量の実験には理想的とは言えません。

「ハイスループット実験に取り組むのであれば、もっと高価な機材の導入が役に立つ場合もあります 」とアドバイスします。

オルガノイド培養のベストプラクティスや独自のヒントをご紹介する「Organoids Master Class Series: Introduction To & Getting Started With Organoids」と題した当社のウェビナーがご覧いただけます。皆様のオルガノイド培養プログラムづくりにお役立てください。