Suspension Culture and Seed Train Considerations for Scale-Up | Corning

複雑さを増すバイオ医薬品の世界で、ウイルスベクター製造の根幹を支える技術として浮遊細胞培養が存在感を増しています。遺伝子治療やワクチン開発に弾みがつく中、課題の多い製造やスケールアップに対応する上で、浮遊培養を適切に組み込むことが極めて重要になっています。本記事では、浮遊培養が持つ意味合いを深く掘り下げ、ウイルスベクター製造や円滑なスケールアッププロセスの成功に欠かせない重要な検討ポイントや戦略を明らかにします。

ウイルスベクター製造などにおける浮遊細胞培養プロセスの開発やスケールアップに関しては、考慮しなければならない重要ポイントがいくつかあります。培地の調製や攪拌などのプロセスパラメーターに加え、大スケールでの製造計画など、もっと理論的な検討事項に目を配ることも大切です。

開発段階では、初期探索にフォーカスし重要なプロセスパラメーターを特定するため、ある程度の柔軟性を持って検討を進められますが、製造段階では特定のプロセスが特に重要になることから、事前検討が必要となります。この検討ポイントの1つにシードトレインが挙げられます。つまり、数百万個の細胞を数十億個の規模にまでどのように拡大するのかという課題です。シードトレインに固有の問題は、使用する容器のスケーラビリティです。言い換えれば、数百ミリリットルの規模でも数リットルの規模でも同様の能力を期待できるかどうかです。最終的に、大スケールのGMP環境で製造することになれば、閉鎖系のプロセスが必要になります。そこで、早い段階から閉鎖系について習熟しておくと有利です。

セルベース製品の研究開発

最初は、適切な細胞株の選定、培地の調製、pHや温度の調整、適切な酸素濃度の確保など、さまざまな条件のテストや最適化を小スケールでスタートします。最終的なゴールは、重要なプロセスパラメーターを決定し、ウイルス収量を最大化する効率的な製造ワークフローの構築にあります。

小スケールで検討を進めることにより、フラスコ、培地、試薬に多くの予算を投じることなく、さまざまな条件を試すことができます。これは、物事を素早く最適化する費用対効果の高い方法で、その根底には、ハイスループットの最適化と、実験計画法(DoE)の原則の活用があります。一般的に、この方法を実現するには、Corning® ミニバイオリアクター三角フラスコなどの開放系を使用します。

スケールアップとシードトレインの最適化

大容量化や製造スケールアップの際、最終的なスケールを踏まえ、理想的には同一の方式を維持して一貫性を確保することが重要です。例えば、5 L未満の容量を扱う場合、三角フラスコかスピナーフラスコで目的は達成できます。それ以上の容量になる場合、ロッキング式バイオリアクターは最大50 Lまで扱えます。さらに大容量であれば、攪拌タンクリアクターを検討すべきです。

セルベース製品に関して言えば、大規模スケールでの製造とは、細胞数が数十億個、場合によっては数兆個の規模を指します。ひとたび初期の開発・最適化の研究が完了すれば、次のステップは、最終製造段階に向けて十分な細胞を生産することになります。そこで必要となるのが、シードトレインです。つまり、小容器から始め、可能性としては量産用バイオリアクターにまで培養量を徐々に拡大していきます。このシードトレインの最適化は、費用も時間もかかるプロセスになる可能性があります。細胞培養の条件は、スケールごとに異なることがあり、プロセスのパラメーターを適合させる必要があります。たとえ小スケールですべてが最適化されていたとしても、スケールアップには、ある程度の調整や、場合によってはそれまで設定されていたパラメーターの再最適化も必要になります。例えば、三角フラスコでの浮遊培養の攪拌方法は、攪拌槽型バイオリアクターやスピナーフラスコの場合とは異なります。羽根車や振盪機の速度が異なると酸素供給にも違いが出るため、細胞増殖に影響が生じることがあり、容量が増えれば、トランスフェクションプロトコールをさらに最適化する必要があります。

Suspension Workflow

製品・プロセスの安全性に関する検討事項

スケールアップは、安全優先にもつながります。細胞・遺伝子治療、バイオ治療薬、ワクチンのための製品は、GMP基準の下で製造しなければなりません。コンタミネーションからの製品保護やオペレーターの安全確保を徹底することが非常に重視されます。ウイルスベクター製造のスケールアップに関しては、オペレーターの保護とGMP準拠の両方の面でバイオハザードの封じ込めが不可欠です。

初期の開発での小スケールの柔軟性は、通常、開放系の手法で確保されますが、遺伝子治療やワクチンを目的としたウイルス製造では、特に大量製造の場合、バイオセーフティレベル2(BSL2)実験室条件などの高度なバイオセーフティ基準が求められることも少なくありません。まさにこのタイミングで、シードトレインのソリューションとして閉鎖系への移行が始まります。

浮遊細胞培養のための閉鎖系ソリューション

閉鎖系への切り替えは、比較的わかりやすく、多くのメーカーから利便性の高いソリューションが提供されています。例えば、コーニングのバイオプロセス製品には、無菌トランスファーキャップとチュービングをセットにした三角フラスコやスピナーフラスコなど、アッセンブリ済み閉鎖系オプションがあります。こうしたオプションは、ルアーロックコネクターかMPCコネクターを使うか、チューブ溶着で容易に接続できます。さらに、アダプターやチュービングの長さなど、個別のニーズに合わせて構成をカスタマイズできる柔軟性もあります。

また、コーニングのクローズドシステム製品には、クローズドシステム系のアクセサリーがアッセンブリされた、遠沈管(50 mL、500 mL)、ストレージボトル、コレクションバッグなどもあります。このように総合的なソリューションを取りそろえているため、小スケールの振盪培養用三角フラスコやスピナーフラスコから、大スケールのロッキング式バイオリアクターや攪拌槽型バイオリアクター(STR)まで、閉鎖系のあらゆるスケールを円滑に導入できます。容器間の送液は、滅菌済みの使いやすいアッセンブリ済みソリューションを使えば難なく実行できます。

混合作業が少ないプロセスには、Corning 細胞培養バッグが利用できます。これは500 mLから5 Lへのスケールアップに手軽に使えるソリューションとなります。バッグのフィルム全体を通して、酸素や二酸化炭素などの重要なガスの交換を効率的に行うことができます。滅菌済みの使いやすい製品として提供され、送液やサンプル採取の閉鎖系アダプターが付属します。

確かな計画と適切な製品があれば、最適化の際に複数条件をテストする柔軟性を確保しつつ、ウイルスベクター製造のスケールアップ時のバイオハザード封じ込めのニーズも満たすことができます。