支援の声を上げよう:研究室で人種差別との戦いを支援するには | 今日からできる5つの行動 | Corning

私たちの暮らしの至るところにはびこる構造的人種差別。研究室という場も例外ではありません。多くの有色人種の人々が経験しています。

こうした主張は研究者の間でも以前からありましたが、個々の声が1つのうねりとなって社会的な反人種差別運動に発展したのは2020年になってからのことです。相次ぐアフリカ系アメリカ人殺害事件が契機となり、2020年6月10日を、STEM(科学・技術・工学・数学教育)分野の人種間の公平を訴え、人種差別に反対する日と位置付け、#ShutDownSTEM、#ShutDownAcademiaの運動の一環として、数千人の研究者が出勤を取りやめ、数百の大学や研究施設が休業・休校に踏み切りました。支持者らは、このハッシュタグをソーシャルメディア上で掲げ、黒人差別根絶のメッセージを拡散しました。

この社会全体での議論は続いており、そうあって然るべきだと、コーニングのDiversity, equity and inclusion担当最高責任者、Dana Moss氏は言います。コーニングのOffice of Racial Equality and Social Unityによる社内的な重点活動の責任者を務めるMoss氏は、こうした議論について、個々の研究者だけでなく、科学全体の支援につながると捉えています。

「多様性の価値が揺らぐことはありません。STEM分野のイノベーションの面でも、思想の面でも多様性の大切さは同じです。しかし、多様な研究者による貢献が見過ごされると、研究の妨げとなります。画期的な発見も生まれにくくなります」とMoss氏は言います。

確かに、人種差別根絶のためには、気まずいやり取りやつらい自己反省も必要だと、ペンシルベニア大学ウォートン校から主張が上がっています。しかし、人種差別反対の声をあげる前に、私たちの偏見がSTEM分野の研究にどのような悪影響を及ぼすのか理解しておかなければなりません。

まず耳を傾け、そのうえで行動に移すことが大切です。

今日からできる5つの行動

研究室で自分がどのような立場にあろうとも、良き理解者になるための取り組みは可能です。疎外されている人々を擁護し、こうした人々に学ぶ機会は、日常生活の中にたくさんあります。

1. 疎外された人々の声を広げる

彼らの言葉に耳を傾けることも大事です。しかし、研究者が人種間の公平のための真の支援者になるためには、声になっていない思いを汲み取る必要があります。つまり物言わぬ人々への理解です。

コーニング アドバンストオプティクス事業部 ビジネステクノロジー担当ディレクター、Odessa Petzold博士は、次のように語ります。「同僚に意見を積極的に求め、誰もが声をあげる機会をつくることが大切です。会議の場では、今まで気に留めなかったような意見に注意を払い、議論に招き入れ、考えが却下されたり見過ごされたりしている人々を擁護してみることです。こうした人々に機会を与えなければ、多様性は抑え込まれ、異なる視点や考え、経験がもたらすメリットを享受できないことになります」

とはいえ、これまで注目されなかった意見に光を当て、擁護する方法は、人前に引っ張り出すことだけではありませんし、それが常に最良の方法とは言えません。中には、生まれつき物静かな人や引っ込み思案の人もいるからです。もちろん、だからと言って、このような人々には貢献の機会を与えず、意見も聞かなくていいわけではありません。大きな会議の後に直接声をかけたり、少人数での雑談の場を提案したりすることも、気軽な雰囲気や馴染んだ形で彼らの気づきを披露してもらう効果的な方法と言えます。

2. 同僚の成果をたたえる

研究者の間には、研究業績がすべてという誤った考えが横行しています。確かに、論文や発表はそれ自体完結したものではあっても、他者に読んでもらい、共有してもらい、評価してもらわなければなりません。

「そういうふうに取り扱われるための道筋が欠かせません。親しい人や自分と見た目の似ている人が成し遂げた成果には、喝采を贈りたいと思うのが人間です。ところが、これは先入観に基づくものだと意識する必要があります。本来、コンセプト提案や論文投稿・査読、さらにはチームで論文を共有するときも含め、相手が誰であろうと貢献があれば拍手喝采を贈るという姿勢を貫くことが求められます。多様な研究者の貢献が見過ごされれば、研究事業は大きな損失を被ることになります。逆に、分け隔てなく同僚の貢献が評価され、祝福されれば、大きな利益になるのです」とPetzold博士は言います。

3. 暗黙の先入観や差別を目にしたらすぐに対処する

ひとくちに偏見と言っても、いろいろな形があり、あからさまな偏見ばかりではありません。ほとんどの人々は、露骨な差別行為を見かけたら、人事部などに通告すべきなのは知っていますが、特に悪質なケースは、むしろあまり目につかない差別行為のほうなのです。例えば、特定の研究技術について、相手の学歴だけで「これくらい知っているはず」とか「わかるわけがない」と決めてかかるような言動は、たとえちょっとしたことでも自覚なき差別であり、ぎすぎすした空気を生み出しかねません。

Scientific American誌によれば、先入観ありきの発想に何の疑問も引っ掛かりも感じない傾向を「暗黙のバイアス」(自らの経験や環境によって醸成された先入観)と言います。この暗黙のバイアスについて、Moss氏は、研究生活のいたるところで見られると指摘します。根強い差別の1つとしてMoss氏が挙げるのは、出身の大学や大学院に対して人々が抱く“格”の違いです。

「特にポスドクのころに経験しがちなのですが、学歴・経歴、出身校、師事した教授によって、評価や信用が変わってしまうこともあります。たとえ悪気はなくても、研究者としての経験の有無を、過去の同僚や出身校で判断されることがあるのです」そうMoss氏は指摘します。

このような先入観を捨て去るには、それなりの努力と意志が必要です。それは、自分自身に特権意識や偏見、思い込みがないか、見つめ直すことでもあります。ハーバード大学の「プロジェクト・インプリシット」が開発したテストを使うと、自分の中にある偏見が無意識のうちに自らの信条や行動にどのような影響を与えているのか探ることができます。

4. 互いに良き助言を与え合う機会をつくる

メンター制は欠かせません。メンターの助言があるからこそ、疎外感を覚えることなく、自分が支えてもらっているとか、自分の意見を聞いてもらえるという自信を持って、キャリアを積み重ねていくことができます。それだけでなく、多様性ある人間関係やコラボレーションを育むうえでもメンター制は重要です。年齢やキャリアステージに関係なく、誰でも多様な経歴や変化に富んだ人生経験を持つメンターの恩恵に浴することができます。研究者も同様で、自分とは外見が違う人々、自分とは異なる道を歩んできた人々のメンターとなって問題解決に取り組むことで、自分にもプラスとなります。

アメリカのコーニングにはバディプログラム(新人社員に特定の同僚が手助けをする制度。「バディ」は仲間の意。)があります。Petzold博士自身、入社後の新生活にスムーズに馴染んでいくうえで、このプログラムが重要な役割を果たしたと振り返ります。Petzold博士を担当したバディが退職した今も、友人関係は続いているそうです。

「私のバディは、非公式のコーチ役も担ってくれました。コーニングに入ったばかりの私が職務を円滑に全うできるように社内人脈も紹介してくれましたし、キャリア目標の実現に向けた道筋を描く機会を早いうちから見つけるよう応援してくれました」とPetzold博士は言います。

5. 多様性に富んだ採用方針を

意思決定権者でなくても、人材の多様化を訴えることはできます。研究室を見渡し、「こんなはずではない」とか「こうあるべきではない」と思える状況に気付いたら、声を上げましょう。誰もが分け隔てなく参加・活躍できることに重点を置いた採用プロセスに移行するとともに、帰属意識の醸成に向け、定着率アップのためのプログラムや取り組みを整備するようにマネージャーに働きかけ、そして自らそれらに参加しましょう。

「つまり、どのような境遇や個性を持った人であっても、自分が大切にされている、尊重されている、温かく受け入れられていると実感でき、これからも成長・発展を続けていけると感じられる場を確実に築くことが大切なのです」とMoss氏は語ります。また、Moss氏によると、コーニングでは、社内サイト「Intersections」に対話・ディスカッションの場を設けており、ここにはコーニング従業員が暗黙のバイアスの克服、差別への対処、文化意識の向上に取り組むためのリソースが揃っています。

「当社の戦略の重要な一角を占めているのが、人種や多様性をテーマに従業員を啓発することであり、また、全従業員が重要な話し合いを通じてお互いにしっかり向き合うための手段を用意することなのです。この戦略に沿って実現する原動力となるのが、Intersectionsなのです」とMoss氏は言います。

多様性が発見を支える

人種差別反対の声をあげることは、正しい行いです。至極当然の行為です。しかも、Moss氏とPetzold博士が口を揃えるように、科学・技術の進展のための正しい行いでもあるのです。しかるべき表現と、誰もが等しく貢献を期待される環境なしに、進歩はありえません。真に誰もが分け隔てなく参加・活躍できる環境があれば、多様性を保ちながら力強い進歩につながります。

Petzold博士は次のように語ります。
「研究者、エンジニアなど科学系企業で力を発揮しているすべての人々の声に耳を傾けなければ、多くの人々を失い、大部分の可能性を失うことになります。すべての貢献を認め、すべての声に確実に耳を傾けていれば、はるかに多くのイノベーションがはるかに迅速に生まれていたはずです」