Ultra-High-Throughput Screening (uHTS): How Scientists at Scripps Research Target Global Medical Breakthroughs | High-Throughput Screening (HTS) Technologies | Corning

今回のSelectScienceのインタビューでは、アッセイ初期から用量反応、創薬化学に至るまで、臨床的可能性のある低分子化合物の同定に用いられる最先端技術の探索についてお伺いします

Scripps Research(米国フロリダ州)の分子医学部門シニアサイエンティフィックディレクター兼ハイスループットスクリーニング、医薬探索研究、化学部門の責任者であるTimothy Spicer博士と同僚のLouis Scampavia博士は、事実上無限の広がりを持つ生物学の可能性を今よりも拡大すべく、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術の活用研究に注力しています。Scripps Researchでは、ほかにもさまざまな基本的生物医学の進歩のための研究が進められています。

Spicer博士は次のように語ります。「この研究の目的は、アンメットメディカルニーズのある標的に着目し、こうした標的に対する低分子化合物の効果を突き止めることです。」

これは、Scrippsが保有する創薬ライブラリーの多様な化合物をテストすることにほかなりません。ライブラリーの化合物はおよそ665,000種と、膨大な規模を誇ります。Scripps Researchでは、社内の研究者や製薬・バイオテック業界の共同研究者、NIH(米国立衛生研究所)の協力の下、アッセイの初期から完了、用量反応、さらには創薬化学に至るまで総合的に取り組んでいます。

世界初の超ハイスループットスクリーニング(uHTS)システム

Spicer博士は、生物学と工学を結びつけ、世界初の超ハイスループットスクリーニング(uHTS)システムの提供に尽力するなど、科学研究の進歩に長年貢献してきました。Bristol-Myers Squibb社とAurora Biosciences社の間で、数百万ドル規模の巨額予算を投じて進められた共同研究を例に挙げ、Spicer博士は次のように説明します。「私たちは大量化、迅速化、効率化、低コスト化を推し進めようと、ミニチュア化に狙いを定めました。1536ウェルと3456ウェルに対応したシステムを開発したため、超ミニチュアフォーマットが扱えるソリューションのほか、バルク試薬分注、化合物分注・分散、読み取り技術のための高度に設計されたシステムも必要でした。」

ところが、同プロジェクトを成功させるためには、適した技術が必要でした。「そのようなシステムに合ったプレートを開発するには、別のパートナーと組む必要があることがはっきりとわかっていました。そこで紹介されたのがコーニングだったのです。」とSpicer博士は言います。コーニングは、Scrippsの研究チームと緊密な協力関係を築き、1536ウェルフォーマットの自動化に適したプレートの開発に成功しました。これがCorning 1536ウェル スフェロイドマイクロプレートの誕生です。

「まだ2Dフォーマットから手を引く動きはありませんが、HTSやuHTSで、生理学的にはるかに適切なシナリオが描けるようになったことは明らかです。」


Timothy Spicer博士 

Scripps Research

3Dスフェロイドを用いたuHTSアッセイ

この研究の鍵は、3D細胞フォーマットを使って生理学的関連性の高いシナリオを少しでも多く見出せるかどうかにかかっています。というのも、こうした細胞培養モデルは、従来の2D単層モデルよりも良好にin vivo環境を模倣できる一方、用途が低〜中スループットのアッセイに限られていたからです。uHTSの誕生で、さらなるハイスループットの選択肢が生まれ、かつてないほど大規模なライブラリーも調べられるようになりました。

ただし、uHTS導入にはそれなりに課題があり、いくつもの高度な技術の開発が必要でした。この状況に積極的に取り組んだ企業の1つがコーニングで、低接着性を備えた特殊な表面を開発しました。重力を利用することでCorning 超低接着表面は、研究室の細胞株か、患者の腫瘍から直接採取しオルガノイドとして維持されている細胞株かを問わず、細胞同士の直接接着を可能にします。

「NIH NCI IMAT助成事業の一環として、私たちは2Dと3Dの比較研究を実施し、膨大な時間と労力をかけて、患者自身の膵臓がんと関連する正常線維芽細胞の両方に着目し、膵臓がんとオルガノイドの使用に関する要点を確実に押さえることができました。最終的に非常に納得のいく結果が得られました。まったく同じ細胞タイプでも2Dと3Dのスクリーニングで異なる結果が得られ、実際、一部のヒット化合物はすでに臨床試験段階にあります。」とSpicer博士は述べています。

アンメットニーズへの対応

膵臓がんモデルでは十分な研究体制が整っている一方、Scripps Researchのチームは、大腸がん、肺がん、脳腫瘍など他の疾患モデルにも着手しています。

「同様に高悪性度グリオーマについても膨大な時間をかけており、地元の病院の研究グループと緊密に連携しながら、脳腫瘍患者からの腫瘍の直接採取を試みています。」とSpicer博士は言います。このプロセスでは、腫瘍の一部がScripps Researchのチームに送られるほか、一部は病理学者に提供され、同一患者検体について全エクソーム解析とバイオマーカーデータを提供する専門業者にも一部が送られます。

患者の腫瘍検体が担当医から届き次第、即座に3Dモデルとして培養され、数週間のうちに薬剤テストが実施されます。この結果に、共同研究者によるエクソーム解析データとバイオマーカーデータ(RNA-Seq解析データや発現プロファイルなど)を組み合わせ、薬剤遺伝子ネットワークプロファイルを作成し、当該患者に最も有効に作用する薬剤の投与経路や組み合わせの選択に役立てられます。

「結果は見事なものでした。薬剤を単独で使用した場合に用量効果がほとんどみられない一方、薬剤を組み合わせて使用した場合、同じ用量でもin vitroでがんが完全に抑制されることが実証されました。がんをノックアウトする一方で、一部の正常細胞だけを残すという素晴らしい成果をあげている例もあります。これは患者にとって極めて重要と考えられます。」

最後にSpicer博士は次のように締め括っています。 「これだけ興味深い内容ですから、ここで気を抜くことなく、あらゆる手を尽くすことが大事ですね。」 

参考文献

1. Madoux F, Tanner A, Vessels M, Willetts L, Hou S, Scampavia L, Spicer TP. A 1536-Well 3D Viability Assay to Assess the Cytotoxic Effect of Drugs on Spheroids. SLAS Discov. 2017 Jun;22(5):516-524.