研究での気液界面(ALI)の活用

気液界面(ALI)研究は、長きに渡ってin vitroの培養環境でin vivo生態を再現するゴールドスタンダードとされています。培養物の片側を液体培地に、反対側を気体にさらすため、in vivoで液体と気体の双方との相互作用がある気道上皮細胞の研究に理想的な手法です。

ALI実験は喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、多様な呼吸器疾患の研究に不可欠ですが、今は、新型コロナウイルスに対する呼吸器の基礎を探るうえでも極めて重要になっています。すでにALIのおかげで、目下のパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスについて研究者の理解が深まっており、New England Journal of Medicine誌を始め、有力医学雑誌に論文が発表されるなど研究が進んでいます。

ALIは、前臨床研究でますます重要な役割を果たすことになります。その背景のほか、ALIを研究に用いる際に検討すべきベストプラクティスについて、コーニング ライフサイエンスのプロダクトラインマネージャー、Shabana Islam博士(MS、PhD)に聞きました。

ALI培養の仕組み

ALI系は頂端側と基底側のコンパートメントで構成されていて、双方を分けているのが、コーティング済みパーミアブルサポートなどの多孔性フィルターサポートです。細胞は頂端側表面上で培養します。これがコンフルエントの状態に到達すると、頂端の境界を超えて移動します。培地は基底側に残るため、頂端側界面上の細胞が気体にさらされ、その後、細胞が分化して頂端側微小環境を生成します。

基底側表面は培地につながっているため、微多孔質膜を介して栄養素と湿度を頂端側に供給できます。細胞が分化する際、例えば気道上皮細胞などの細胞源に基づき、頂端側コンパートメントに粘液を分泌します。Islam博士によれば、この活性は、in vitroで上皮の挙動を生理学的に模倣しているため、呼吸器研究と高い整合性があります。

Islam博士は次のように説明します。「細胞分化は、気道上皮細胞の特徴です。このため、モデルには細胞の分化能・維持能が不可欠ですが、これをALIで実現できるのです」

ALIワークフローの解説

初代細胞のALI培養を樹立する際、最初のステップになるのが、組織からの細胞単離です。続いて、細胞を希釈し、細胞培養インサートの透過膜に播種します。コラーゲン Iやコラーゲン IVなどの細胞外基質をコーティングした表面は、細胞培養に好適な選択肢になります。

細胞タイプと培養に必要な期間に応じて、細胞を3~6週間培養します。上皮細胞は完全に分化して繊毛細胞、杯細胞、基底細胞を形成し、in vivoのヒト上皮細胞を再現します。

このワークフローの総合的なソリューションには、コーティングされていない、またはコーティング済みのパーミアブルサポートも含まれます。Falcon® 6ウェルディープウェルプレートなどマルチウェル型コンパニオンプレートは、培地交換の頻度が少なくて手間もかからず、コンタミネーションのリスクが最小限に抑えられる長期培養ソリューションです。

ALIのアプリケーション

in vitroモデルでin vivo様細胞を培養できるため、ALIは、細胞間シグナル伝達と疾患モデル化の2つの目的で、肺疾患の研究に広く使われています。例えば、コーニング製品のユーザー企業であるEpithelix社は、ヒト気道上皮を模倣したin vitro細胞モデルとして人気のMucilAirにALI手法を生かしています。

嚢胞性線維症(CF)研究でも、ALIのアプリケーションが有望視されています。嚢胞性線維症基金によれば、嚢胞性線維症は、世界全体で70,000人の患者がいる希少肺疾患の1つで、患者ごとに治療反応が大きく異なり、個別化医療の研究をさらに進めていく必要があります。患者から採取してALIで培養した鼻細胞であれば、こうした知見の欠如を埋める一助になる可能性があります。

「鼻細胞を使う利点としては、ALI培養に当たって患者から採取しやすい点が挙げられます」とIslam博士は言います。Islam博士は、ALIがなければ個別化アプローチを研究しようにも、できることにはおのずと限界があるとして、次のように指摘します。

「動物モデルは、非常に高コストで時間もかかり、動物間でかなり大きなばらつきがあります。鼻細胞のALI培養の場合、そのようなばらつきを最小限に抑え、細胞培養を早めることが可能です」

しかも、ALIの可能性は、呼吸器系に限定されません。学術誌のReproduction in Domestic Animals誌によれば、胚微小環境や生殖補助の有効性の研究など、女性生殖器系での使用の可能性を探索する研究がいくつかあります。また、消化管のほか、創傷治癒、真皮リモデリング、がん研究のための器官培養皮膚モデルといったアプリケーションを探索する研究も行われています。

最初から最後まで一貫性を維持

ALIモデルの重要な利点の1つは、動物モデルよりばらつきが小さい点です。この利点を最大限に生かすため、Islam博士は、最初から最後まで一貫性を維持し、標的組織の特徴を備えた細胞モデルの使用を推奨しています。

in vivoの標的組織やエンドポイントの目的が何であれ、妥当性のある比較可能な因子を持つ典型的な細胞モデルの構築に取り組む必要があります。こうした因子の例としては、標準作成のための投与量測定基準や同様の統計比較などがあります。また、パーミアブルサポートを使用すれば、メンブレンのポアサイズやポア密度、培地の選択はすべて自分でコントロールできることを知っておいてください」とIslam博士は言います。

ALI細胞培養領域には大きな弾みがついていることに加え、新型コロナウイルス感染が続いているために呼吸器疾患の罹患率とプロファイルが上昇していることもあり、この領域がさらに勢いを増す見通しです。ALI培養が低コストで比較的迅速に導入可能な点を考えると、導入に関心を持っている研究者にとっては可能性にあふれています。しかも、研究促進につながる画期的な実験用製品もかつてないほどに増えています。

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