研究室を一から立ち上げるには

コロナ禍の休業期間開けの業務再開は多くの作業が発生します。ですが核となる細胞培養の実施に新たなスペースが必要となり、一から研究室を立ち上げるとしたらどうでしょう。これは、単なる休業明けの業務再開とはまったくの別の話です。

細胞培養というものは、培養物の生存を守り、実験を順調に進めるうえで、専用のスペースが必ず必要となります。ところが新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ソーシャルディスタンスや衛生対策の強化、コンタミネーション対策など、いくつもの新しい課題まで抱え込むことになりました。

これだけの課題を前にすると気が滅入るかもしれませんが、心配は無用です。これから紹介するヒントを参考にすれば、新しい研究室を安全に手早く有効に立ち上げることができます。

適正なスペースを見つける

研究室のスペース選定は、予算によって異なります。Science誌は、創業・起業向けのスペースを一時的にシェアしたり借りたりするか、商業ビルで長期賃貸契約を結ぶことを選択肢として挙げています。近くにインキュベーション施設があれば、それも候補になります。地元の機関・団体も詳しい情報を提供しています。例えば、カリフォルニアライフサイエンス協会(CLSA)は、地域・規模・設備別にインキュベーターや研究スペースのリストを作成しています。

スペース探しの際は、電気コンセント、ガス栓、シンクなど各種設備をチェックし、研究用途に適した場所にあるかどうか確認します。新しいスペースでワークフローがどのように展開するのかイメージしてみましょう。実験台には、機材を置くスペースが十分にありますか。人が行き来する際、スムーズな動線は確保できますか。研究者同士が交錯・衝突する恐れはありませんか。ベンチ作業の邪魔にならないように、メインの実験エリアから十分に距離を取ったところにデスクスペースを確保できますか。物件を検討する際には、こうしたチェックポイント(もちろん、ほかにもあります)が重要になります。

改修計画は慎重に

スペースを希望に応じて改修できる物件だと好都合ですが、計画は慎重に立てましょう。研究室のリフォームは、自宅のリフォームと同じようなものです。経験豊富な専門家に、ウェットラボならではの検討事項(給排水、ガス配管など)について助言を求め、薬品などのこぼれに強い実験台の天板表面の選定、スリップ・転倒のリスクを最小限に抑える堅牢な床材の選定などでアドバイスしてもらいましょう。改修作業によっては研究室の安全性に影響が及ぶことがあるため、計画段階で細心の注意を払ってください。

Lab Managerの記事によると、予算が潤沢でない場合には、什器の入れ替えなど控えめなリフォームから始めてもいいでしょう。

適応可能なプロトコールを作成

管理・メンテナンスのプロトコール、マニュアル、チェックリストを標準化・体系化します。ただし、コロナ禍への対応のように不測の事態に対応できるように、こうした規則を変更できる余地は残しておきます。例えば、コンタミネーションリスクの高まりに対応して、清掃頻度をコロナ禍前より増やす必要があるかもしれません。ソーシャルディスタンスのためには時差出勤や人員配置の変更も重要になることから、最新の条件に合致するようにチーム主体の実験プロトコールを変更する必要もあるでしょう。

適切な消耗品・備品の在庫を確保

細胞培養フラスコフィルターシステムマルチウェルプレート培地各種表面など、細胞培養の必需品から始めましょう。

研究のワークフローに合わせた備品類の在庫が完全に揃うまでに、数週間から数カ月かかります。場合によっては、実験の途中になってようやく何らかの設備や消耗品・備品が足りないことに気づくことさえあるのです。

あなたならできる!

研究室新規立ち上げを上手に進めることは容易ではないかもしれませんが、それだけやりがいのある仕事でもあります。小さく始めて、自分が想定する以上に計画を徹底し、時間をかけて安全、的確にことを進めていけば、後で失敗や手ぬかりへの対応に追われることもありません。