The Benefits of Coatings for Bioproduction: Stem Cells and Coatings

細胞培養表面のコーティングは、研究室で培養される多くの細胞種のコンディションに重要な役割を果たします。そのため、幹細胞培養に携わる研究者にとって、適切な生物学的コーティングや合成コーティングの確保は極めて重要であり、生命線といっても過言ではありません。

バイオプロダクションにコーティングを使用する利点には、構造支持、接着、生物学的関連性、細胞シグナリングが挙げられます。コーティングの選択は、培養が小スケールか大スケールかを問わず、幹細胞の品質と運命に計り知れないほどの影響を及ぼします。

幹細胞にコーティング表面が必要な理由

コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティスト、Robert Padillaによれば、各種幹細胞のコンディションや多能性特性の維持に役立つ理想的な微小環境を構築するうえでコーティングは不可欠です。幹細胞が生物学的関連性を保ちながら振る舞えるように、研究者が可能な限りin vivo環境を再現するうえで役立つのが、細胞外基質(ECM)コーティングです。

コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティスト、Whitney Wilsonは、次のように説明します。

「すべての細胞種の接着にECMが必要なわけではありません。これまでに研究現場では、プラスチックに接着する細胞株を開発してきました。細胞株や完全分化細胞を扱う場合には、細胞形態の変化をあまり気にしません。線維芽細胞やがん細胞のまま変わることがないとわかっているからです。一方、幹細胞は、ほかの細胞種に変わろうとするため研究対象としてはるかに扱いにくいです。そこで絶えず幹細胞を騙して、幹細胞のまま変化させないようにする必要があります」

正しいコーティングを選べば、幹細胞の接着ポイントとなり、幹細胞に適切なシグナルを伝達します。例えば、インテグリンと呼ばれる細胞表面受容体は、コラーゲンやフィブロネクチンといったECMタンパク質に結合します。このECMと幹細胞の相互作用によって、接着とシグナル伝達の両方が生じ、細胞の機能を刺激します。


バイオプロダクションのためのコーティングのメリット:多能性幹細胞・多分化能性幹細胞

多能性幹細胞(PS細胞)は、成体のあらゆる細胞種への分化能を持ち、初期胚発生の短期間を除いて人体には存在しません。ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞、hESC)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含め、こうした細胞を培養する研究者は、細胞が多能性を維持できるように、細胞の微小環境を注意深く管理する必要があります。

前出のPadillaによれば、汎用のマウスEHS肉腫細胞由来ECMであるCorning® Matrigel® 基底膜マトリックスを使い、培地成分など他の因子を管理しながらPS細胞を培養すれば、不必要な分化を回避できます。コーニングは、幹細胞アプリケーション向けに、あらかじめスクリーニング済みで、ばらつきを抑えたヒトES細胞最適化マトリゲル基底膜マトリックス製品を提供しています。

一方、多分化能性幹細胞は、成体幹細胞とも呼ばれ、成体の特定部位に存在し、限られた細胞種への分化能を持ちます。研究者やメーカーは、バイオプロダクションに適したコーティングを選ぶことにより、各細胞種のin vivo環境を模倣しやすくなります。具体例を挙げてみましょう。

  • 体内の神経幹細胞は、ECM中のラミニンとの接着が重要です。この環境を神経幹細胞向けに再現する一助となるのが、ラミニンを含む細胞培養表面であり、ポリ-D-リシン、ポリ-L-リシン、ポリ-L-オルニチンのいずれかを含めると神経突起伸長を促進できます。
  • 間葉系幹細胞(MSC)は、さまざまな臨床試験で研究されており、骨、皮膚、脂肪、筋肉、その他の細胞種への分化能を持ちます。MSC自体がECMタンパク質を産生し、細胞外網状構造を形成します。これがバイオリアクター内部で問題になることから、多くの研究者はバイオリアクター表面をコラーゲンやフィブロネクチンでコーティングしています。こうしたECMタンパク質に接着すると、MSCによる独自ECMの産生を妨げるシグナルが送られます。
  • 造血幹細胞は、あらゆる血液細胞種への分化能を持ち、通常、浮遊培養法が用いられ、容器のコーティングは必要ありません。

研究者は、特定の幹細胞種と適合性のあるコーティングを選ぶだけでなく、アプリケーションや望ましい細胞運命に応じてコーティングを最適化する必要があります。コーニングでは、マトリゲル基底膜マトリックスに加え、広範なテスト済みの天然型・合成型のフィブロネクチンビトロネクチン、数種類のラミニンコラーゲン、さらにはコーティング済みの細胞培養製品を取り扱っています。

一部の細胞は、ECMタンパク質混合物を原料とするコーティングと相性が良いことから、研究者はタンパク質の全体的な濃度と混合物のECMタンパク質の比率を最適化する必要があります。

幹細胞用コーティングのコストも重要な条件となります。患者への提供を意図する製品の場合、最終的な治療薬のコストをどう抑えるのか検討することが重要です。タンパク質濃度の最適化によって、高価なタンパク質を必要以上に高い濃度でコーティングに使わないことにもつながります。

幹細胞用コーティングの選定・最適化の手引きは、Corning セルカルチャー製品セレクションガイドを始め、細胞培養表面に関する各種資料をご覧ください。

動物由来か動物由来成分フリーの製品選択

マトリゲル基底膜マトリックスは多能性幹細胞で優れた結果を出しますが、動物由来製品です。企業や研究室の中には、生産工程から動物由来品を完全に排除しようとしているところも少なくありません。とりわけ治療薬でその傾向が見られます。

前出のWilsonは、規制当局とのやり取りから判明したこととして、メーカーは最終製品に関連汚染物質の検査が陰性である限り、幹細胞作製に動物由来品を使用できると解説します。例えば、マウス由来基質を使用している場合、最終製品についてマウス由来の外来性ウイルス検査が必須となります。しかし、この検査は費用がかかるため、予期せぬコンタミネーションが発生すれば、バッチ単位での廃棄となることもあります。このため、一部の細胞治療薬では、ゼノフリー(異種由来成分不含)か完全合成のコーティングを採用することが規制対応手続きの簡素化に有効ではないかと考えられています。

幹細胞向けに利用可能な製品としては、Corning リコンビナントラミニン(rLaminin)-521(ヒト)などのヒトタンパク質や、 Corning Synthemax®といった合成製品などがあります。Synthemaxは、完全合成のビトロネクチンベースのペプチド基質で、広範な検査が実施されているため、PS細胞など複数の幹細胞種の作製に対応します。

一部の製品では、動物由来成分フリーの基質の使用が現実的ではないか、コスト高になり過ぎることがあります。その点をはっきりさせる手段として、最適化・検査プロセスを組み入れることも有効です。

頼りになるコーニング

幹細胞研究の支援で数十年にわたる豊富な経験を誇るコーニング。複雑な幹細胞のバイオプロダクションをお客様が上手に乗り切るための支援体制を整えています。コーニングのウェブサイトには、幹細胞細胞培養表面に関する資料がそろっています。ぜひ今後の可能性の検討にご利用ください。また、当社専門家へのお問い合わせも承っています。