Scaling MSC Therapies: Overcoming Cell Therapy Manufacturing Risks and Barriers

MSC(間葉系幹細胞または間葉系間質細胞)由来の製剤は、現在、世界全体で少なくとも12の製剤が承認を受けているなど、急成長領域となっています。この結果、MSCのバイオプロダクションやスケールアップに伴う課題の克服は、ますます重要性が高まっています。多層型のモジュール式細胞培養系や閉鎖系のソリューションなどの適切なツールを使えば、MSCのスケール変更が容易になり、リスクを低減できます。

今回は、コーニングで活躍する2人の専門家、アジア太平洋地域シニアマネージャーでサイエンティフィックアプリケーション&サポート担当のAmit Sharma氏と、シニアフィールドアプリケーションサイエンティストのMeiko Tsai氏を招き、お話をうかがいました。テーマは、MSC製造の最前線や、細胞製剤製造のリスク低減戦略です。

MSC製剤の最新動向

MSC製剤は、治療効果や製造上のメリットを追い風に、世界中で勢いを増しています。現在、韓国、日本をはじめとして、多くの国々で承認されています。

承認済みのMSC製剤は、脊髄損傷、重症下肢虚血、関節炎、移植片対宿主病(GVHD)の治療をはじめ、さまざまな病態の治療に用いられます。米国では、小児患者のステロイド抵抗性急性移植片対宿主病(SR-aGVHD)の治療を目的とするMSC由来の製剤「remestemcel-L-rknd」(商品名:Ryoncil)が、ついに2024年に初のMSC製剤として、それまでの壁を打ち破っただけでなく、米国食品医薬品局(FDA)が初めて承認するオフザシェルフ(既製品)の他家細胞治療薬となりました。2025年には、中国で急性GVHD用にアミメストロセル注射剤(商品名:瑞博生)が条件付き承認を受けています。

Tsai、Sharmaの両氏によれば、MSCには、患者にとって治療薬の安全性と有効性の面で利点がいくつかあります。一部の細胞ベースの製剤と異なり、MSCは遺伝子改変を必要としません。MSC製剤は低免疫原性を示し、MSCが人体の免疫応答を制御・調節します。MSCは健常ドナーから採取するのが最も一般的で、体内のさまざまな組織から容易に単離できます。

MSCには、製造上の利点もあります。Tsai、Sharmaの両氏によれば、MSCは、iPS細胞と比較して、少ない操作で素早く製造できます。例えば、iPS細胞は、細胞外基質(ECM)でコーティングした培養容器で培養する必要がありますが、MSCは、ECMコーティングなしにCorning® CellBIND® 細胞培養表面で培養できます。これは、製造のコストや煩雑さの削減につながり、承認申請も簡素化されます。

MSCバイオプロダクションのリスクと課題

この数十年でMSC製造は大きく進歩しています。既承認製剤を上市する製薬会社が増加していることは、将来的な成功に向けた有望な動きと言えます。一方、MSC製剤メーカーは、MSC製剤のスケールアップにリスクと課題も抱えています。Sharma氏によると、運用上の課題と生物学的課題の2つに大きく分かれます。

MSCバイオプロダクションの運用上の課題

運用上の課題の1つとして、供給保証が挙げられます。主な供給物を確実に入手するため、メーカーは、「一部の重要な製品は、セカンドサプライヤーの確保」が必要だとSharma氏は指摘します。もう1つのリスクは、コンタミネーションの可能性で、この分野は規制当局が慎重に監視しています。このため、細胞製剤メーカーは、封じ込め環境でのMSC製造の方法を模索し、閉鎖系操作を導入する必要があるとSharma氏は言います。

別の運用上の課題は、スペースの制約です。つまり、製造施設を医療機関や患者に近い場所に置き続ける必要があります。自家製剤のためには、あるいは患者が緊急医療処置を必要とするあらゆるケースでは、製造施設が医療機関の内部や付近にあることが重要とSharma氏は説明します。

MSCバイオプロダクションの生物学的課題

生物学的課題の面では、メーカーは、すでにMSC増殖のプロトコールを確立していますが、製造中のMSCの安定性と一貫性に影響を及ぼしかねない因子がいくつかあります。

Tsai氏によれば、多くのMSC製剤が健常ドナー由来のため、ドナー間のばらつきが課題になることもあります。MSC培養下では、ドナーの年齢、健康状態、遺伝的背景などの因子がMSCの増殖・拡大に影響を与える可能性があります。

さらに、MSCの老化 、つまり年齢に関わる機能低下も、治療効果に影響することがあり、これが細胞ストレスで悪化しかねません。

こうした生物学的課題を克服するために、MSC製剤メーカーの間で導入されている戦略がいくつかあります。MSCの老化を防止するために生化学的介入や生物物理学的介入を行う研究者もいれば、データを駆使して、健常ドナーの中で増殖の速いMSCが採取できるドナーを予測する研究者もいます。

別の戦略としては、誘導MSC(iPS細胞由来のMSC)の使用があります。これは患者の細胞サンプル由来にすることが可能です。誘導MSCは、初代MSCよりも増殖能が上回る傾向があることから、メーカーが、患者由来MSCに伴う供給上の制約を打ち破る一助となります。

MSCバイオプロダクションのリスク低減:閉鎖系容器の役割

幸い、メーカーがこうした課題をある程度克服する際に役立つ解決策があります。例えば、細胞製造用の閉鎖系は、さまざまな形でリスク低減につながります。「閉鎖系が選ばれる最大の理由は、コンタミネーションのリスクを低減できる点にあります」(Tsai氏)。Tsai氏によれば、閉鎖系は、マニュアルで細胞や培地を操作する必要がないため、規制要件やGMP要件を遵守しやすくなります。

Tsai氏は、マニュアル操作を減らすために、細胞培養容器のハンドリングにロボットシステムを使うメーカーもあるとして、次のように語ります。「しかし、特に新たな製造プロセスを開始しようとしている小規模メーカーにとっては、ロボット導入は大きなコスト負担になります。その場合、コーニングの閉鎖系であれば、比較的経済性に優れたアプローチが実現します」。またCorning CellSTACK® 培養チャンバーなどの多層型閉鎖系容器は、コネクターかチューブ溶着によるマニフォールド接続に対応し、培地送液・排出作業はポンプで自動化できます。こうすることで、手間を省き、ハンドリング中のヒューマンエラーの可能性を抑えることができます。コーニングの閉鎖系容器は、優れた性能と再現性の高さで確かな実績があります。また、コーニングは、供給に関わるリスクを軽減するため、供給体制を整えています。

Sharma氏によると、コーニングの閉鎖系には、一貫した表面化学特性という利点もあります。「フラスコなど、さまざまな小スケール用容器に始まり、最大の量産スケールに至るまで、コーニングは一貫して同じ表面化学特性を維持しています。ですから、最初はCellBIND 表面で細胞を培養していて、後にスケールアップやスケールアウトのモデルに移行する際、プロセス開発の必要がありません」。

コーニングの閉鎖系製品は、プラグ&プレイ式の互換性が確保されているため、開発・製造プロセスのあらゆる段階でニーズに合わせて容器を容易に変更でき、再現性を損なうこともありません。例えば、前臨床段階の細胞生物学実験の実施、製剤製造に向けたスケールアップ、製造施設の移転といった節目に、同一の表面化学特性を持つコーニングの容器を使うことにより、細胞増殖環境への変化を最小限に抑えることができます。

細胞製造プロセスの簡素化

Sharma氏は、Corning CellSTACK 容器やCorning HYPERStack® 容器などの製品が、スケールアップに代わる低リスクの選択肢であるスケールアウトに対応可能だとして、次のように説明します。「スケールアウトであれば、同一タイプの容器を使うことになり、単に容器数を増やすだけで済みます。ですから、1つのHYPERStack 容器でコンタミネーションなどの問題が発生したとしても、残りのHYPERStack 容器でバッチ自体は継続できます」。従来のスケールアップの場合、1,000L容器で細胞を増殖させることになるため、コンタミネーションが発生すれば、バッチ全体を失うリスクがあります。

Sharma氏によれば、モジュール式容器を使ったスケールアウトには、容器数を調節するだけで製造スケールをカスタマイズできるという利点もあります。つまり、接着培養から浮遊培養に切り替えたり、条件に大幅な変更を加えたりすることなく、研究室から製造施設に至るまで、一貫した環境で細胞は増殖を続けることができます。バリデーション期間短縮のメリットもあるとTsai氏は付け加えます。通常、スケールアップ後のマイクロキャリアプロセスのバリデーションには6〜12カ月以上の期間が必要ですが、CellSTACK 容器やHYPERStack 容器を使うと、プロセスのバリデーションは1〜2カ月にまで短縮できます。

また、モジュール式のシステムの場合、バッチ処理手順の設計が簡単になります。例えば遠心の場合、遠心システムの容量に応じて容器数を調節できます。これは、細胞回収から処理までの時間を最短に抑えることで、細胞品質保持にもつながるとTsai氏は説明します。

大量細胞製造・自動化のためのスケールアップ

一方、HYPERStack セルカルチャー容器などの静置培養系によるスケールアウトが最適ではないケースもあります。例えば、製造現場で非常に高い細胞収率が必要な場合や、培養系モニタリングの自動化が必要な場合です。そのような場合には、Corning CellCube® システムなど動的培養系によるスケールアップが有効です。コンパクトでスケール変更が可能なCellCube システムでは、バイオリアクターと細胞増殖面の間で、ペリスタポンプを使って細胞培養培地を循環させ、ガスと栄養素の一貫した供給が可能です。

CellCube システムは、静置培養系ならではの直接的な細胞観察の利点に、パラメーターのリアルタイムモニタリング・制御など、バイオリアクターの高度な機能を組み合わせています。Sharma氏は、CellCube システムなどの動的培養系であれば、培養系内のグルコース消費量、乳酸蓄積など、パラメーターのモニタリングを自動化する可能性が生まれると説明します。「このようなパラメーターをリアルタイムに確認できます。こうした動的培養技術が選ばれる理由は、スケールメリットにあります。第2の理由は自動化。つまり省力化です」。

この点についてはTsai氏も同感で、高い細胞収率が必要なのにインキュベーターのスペースやオペレーターが限られている状況のお客様から、動的培養系とスケールアップの選択肢に関する相談が多く寄せられるそうです。静置培養系から、CellCube システムなどの動的培養系に移行すると、さらに省力化や省スペース化を進めながら、細胞収率のスケールアップが可能です。

経験豊富なパートナーとともに、いち早く次の一手を

多くの細胞製剤メーカーが同様の課題を抱えているため、経験豊富なサプライヤーとの協力体制が大きなメリットを生みます。コーニングのアプリケーションサイエンティストは、地域を越えた情報共有体制を確立しており、お客様に成功への道筋を示し、MSC経験が豊富なグローバルチームが培った知識・ノウハウの活用機会を提供します。

Sharma氏によれば、製剤メーカーは、適切な表面の選定など生物学的な課題や、培養容器構成の最適化など運用上の課題を抱えています。コーニングのサイエンティフィックチームは、こうした課題の克服に取り組む製剤メーカー向けのサポート体制を整えています。

コーニングの閉鎖系製品の詳細はこちらをご覧ください。また、コーニングのMSC関連業務の詳細は、当社リソースライブラリーをご覧ください。