Patient-Derived Organoids Are Pioneering Personalized Treatments | Tumoroids

この10年、万人向けの画一的な治療から、各患者に最適化された患者個別化治療へと治療方針は軸足を移しています。個別化医療への移行に当たっては、前臨床研究において患者ごとの特徴をこれまで以上に的確に表し、最適な患者アウトカムにつながるような新たなオルガノイドモデル系の開発が必要です。

患者由来オルガノイド

オルガノイドは、自己組織能、分化能、自己複製能を持つ3次元(3D)培養物です。生物医学研究、特にがん研究での強力なモデル系として注目されるようになりました。3D細胞培養モデルとしてのオルガノイドの利点には、構造、機能、生理学的特性の面で患者組織を2次元(2D)培養よりも忠実にモデル化できる点が挙げられます。

肝臓や肺、膵臓、膀胱などのいくつかの器官の上皮組織を使ったオルガノイドは、この10年間で順調に発展を遂げており、疾患、創薬スクリーニング、治療反応のin vitro研究やin vivo研究に利用されています。

ただし、in vivo条件に類似するin vitroモデルを作成しても、必ずしも臨床現場での成功が保証されるわけではありません。同じ治療でも患者ごとに反応も異なり、中には最終的に治療抵抗性を生じることもあります。この違いは、患者の遺伝的背景や環境・生活習慣の違い、腫瘍内部で生じる遺伝子変異の影響を受けています。そこで、患者由来サンプルから培養するオルガノイドに関心が集まっています。

個別化医療のオルガノイド

プレシジョンメディシン(精密医療)は、個別化医療、オーダーメイド医療などとも呼ばれ、患者の既往歴、環境・生活習慣の影響を考慮しながら、個別の遺伝子、タンパク質、バイオマーカーに基づく治療の開発や選定を伴います。 

米国食品医薬品局(FDA)は先ごろ、プレシジョンメディシンについて、医薬品の研究・選定を一変させる革新的技術と認定しました。さらに、2022年にFDA近代化法2.0の可決を受け、医薬品開発の現場では動物実験の代替技術を使用することで動物実験が免除されることになりました。状況によっては、オルガノイド技術が動物実験の代替として役立つ可能性もあります。患者由来オルガノイド(腫瘍オルガノイドとも)があれば、研究現場では患者への適合性を高めた治療薬開発に取り組むことができます。例えば、オルガノイド研究は、治療に対する患者の反応を予測する際に役立ち、それに応じて単剤または多剤併用による療法のテーラーメイド化にも利用できます。

がん研究の患者由来オルガノイド

がん研究に新たな視点をもたらしたプレシジョンオンコロジー。臨床現場では、原発臓器によるがんの区別(乳がん、肺がん、肝臓がんなど)ではなく、患者の分子特性に基づくサブタイプ(ホルモン陽性乳がん、ヒト上皮成長因子受容体陽性乳がんなど)で区別します。

患者由来オルガノイドは、プレシジョンオンコロジーでの使用に適しています。例えば、2D培養では通常、数回の継代後にクローン化しますが、オルガノイドは、腫瘍の遺伝的多様性をさらに忠実に維持できるため、原発性腫瘍の薬剤感受性が忠実に反映されます。

リビングバイオバンク

これまでに脳腫瘍、乳がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がんなどを対象に、患者由来オルガノイド(あるいは腫瘍オルガノイド)のリビングバイオバンクが設立されています。こうしたバイオバンクでは、患者内および患者間のがん組織の不均一性が反映されており、遺伝子変異と標的治療への患者の反応の間に見られる既知の臨床相関が再現されています。

患者由来オルガノイド(あるいは腫瘍オルガノイド)のパネルは、研究者による創薬、既存薬に対する患者の感受性検査、がん患者向けの薬剤の組み合わせの選定、個別化がん免疫療法の開発に役立ちます。

切除不能大腸がん

2023年5月、『Journal of Experimental & Clinical Cancer Research』でLars Henrik Jensenらのチームが、予後不良で、治療法選択肢のない切除不能大腸がん患者90例の第II相・単施設・オープンラベル・非比較研究の結果を発表しています。患者90例のバイオプシーを採取し、このうち44例のバイオプシーからオルガノイド作製に成功し、このオルガノイドに薬剤感受性検査を実施しました。

主要評価項目は、2か月時点での無増悪生存期間(PFS)でした。精密コホートである患者34例は、患者由来オルガノイドから得られた薬剤感受性検査結果に基づき選定された9種類の治療レジメンで投与しました。この患者集団の半数(34例中の17例)は、2カ月の時点でがんの進行なしに生存していたため、研究の主要評価項目に合致しました。

治療の指針となるハイスループット感受性検査

2019年には、Nhan Phanらの研究チームが、患者由来オルガノイドの薬剤感受性をテストするハイスループット検査法に関する論文を発表しています。同研究チームは、4例(3例が卵巣がん、1例が腹膜がん)の患者由来のオルガノイドについて、240種のプロテインキナーゼ阻害剤に対する感受性検査を実施しました。これらのオルガノイドは、高い腫瘍悪性度、不均一性、既存薬耐性など、患者のがん細胞特性と高い相関のある細胞特性を示しました。

同研究チームは、この検査法を使い、in vitroの結果に基づいて、各患者の治療法として効果的と考えられる既存薬を予測しました。この検査法は、手術から1週間以内に結果が判明しますが、さらに開発が進めば、臨床の場でリアルタイムに治療薬を決定できるようになる可能性があります。

希少疾患のオルガノイド

もう1つ期待が高まる分野に、希少疾患研究があります。患者由来オルガノイド(あるいは腫瘍オルガノイド)があれば、研究者は、希少な遺伝的変異で肝臓、腎臓、心臓、網膜、その他の器官の組織の発達が変化する様子を研究できるようになります。これは、嚢胞性線維症や原発性小頭症など、さまざまな変異から生じる希少疾患で特に有効です。例えば、ある研究チームが先ごろ、FDA承認薬ライブラリーのスクリーニングに、嚢胞性線維症患者由来の腸オルガノイドを使用しました。その結果、特異的変異による嚢胞性線維症患者の治療で、有効性が期待できる既存薬4種を同定しました。

ウイルスや他の病原体のさまざまな変異株が肝臓や肺など患者由来組織とどのように相互作用するのか、オルガノイドで研究している研究チームもあります。

オルガノイド技術とプレシジョンメディシンでコーニングが発揮するリーダーシップ

コーニングでは、オルガノイド培養創薬に活用できる製品ラインを取りそろえ、プレシジョンメディシン分野の進展に取り組む研究者を支えています。中でも、生物医学研究でのオルガノイド培養に広く利用されている主要製品のひとつが、Corning® マトリゲル基底膜マトリックス オルガノイド形成用です。


お客様のオルガノイドやプレシジョンメディシンの取り組みにご利用いただけるケーススタディやガイド、その他の各種資料を取りそろえています。www.corning.com/lifesciencesをご覧ください。