Coatings for Bioreactor Scale-up vs Other Stem Cell Production Systems

多くの幹細胞製剤製造メーカーでは、幹細胞作製の初期プロセスを迅速に開発して、早期達成目標に到達するために、6ウェルプレートやフラスコを用いた小スケール培養を行っています。大スケールでの幹細胞製造となると、新たな要因も関わってきます。スケールアップを成功させるためには、細胞外基質(ECM)の適切なコーティングとプロセスの選定が非常に重要です。

この記事では、バイオリアクターによるスケールアップ、幹細胞製造をスケールアップする他の選択肢、大スケール製造向けのコーティングに関する課題について掘り下げていきます。

幹細胞製造のスケールアップに伴う課題

幹細胞関連のメーカーや研究室は、ゆくゆくは、研究開発での使用量をはるかに上回る大量の細胞を製造する必要に迫られる可能性があります。例えば、細胞療法関連メーカーは、マウスに20万個の細胞を投与するレベルから、ヒト患者に2億個の細胞を投与するレベルへと移行する必要があります。

最終製剤に用いる細胞は、高品質と一貫性が求められ、小スケールで実証された安全性と治療特性の保持が欠かせません。これを達成することは一筋縄ではいかず、甘くみないことが大切です。特に、スケールが大きくなれば、コスト、細胞の健康状態、細胞運命といった問題の検討が必要になり、そのひとつひとつの問題に影響を与えるのが、コーティングの選択です。

コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティスト、Robert Padillaは、スケールアップ方法によっては幹細胞の運命を大きく左右しかねないとして、次のように説明します。「細胞接着や細胞の健康状態にとどまりません。細胞のゆくえを左右するシグナル伝達の問題も多数あります。例えば心筋細胞の増殖に取り組んでいるのに、神経系細胞に分化する可能性もあります。そこで、スケールアップで細胞が変化しないよう徹底することが大切です」。

スケールアップか、それともスケールアウトか

接着系幹細胞を大量に培養する選択肢としては、多層型容器、バイオリアクター、マイクロキャリアがあります。

Corning® CellSTACK® 培養チャンバーHYPERStack® セルカルチャー容器などの多層型容器は、多段のフラスコやプレートで構成され、相互に接続されているため、充填やメンテナンスが容易です。コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティスト、Whitney Wilsonは、多層型容器について、小スケール培養で細胞が置かれる条件と同一条件を再現し、これを大量に増やすことから、正確に言えば「スケールアウト」型のソリューションだと説明します。このため、大スケール培養への移行はわかりやすく単純です。

これに対して、スケールアップ型のソリューションは、培養容器自体の大きさが変わるため、細胞が置かれる条件も変わります。バイオリアクター(細胞培養のための大型容器)とマイクロキャリア(ECMコーティング可能な微小球体で、培地入り容器内で、添加し、その球体表面で細胞が増殖)は、スケールアップ型のソリューションです。細胞の品質と多分化能や多能性が確実に維持されるように、慎重に最適化する必要があります。ただし、多くの場合、マイクロキャリアやバイオリアクターによるスケールアップシステムでは、多層型容器に比べて、オペレーターがセットアップやメンテナンスに費やす時間が短縮されます。

スケールアップで思うような結果が得られない場合、多層型容器によるスケールアウトを試してみることをWilsonは勧めています。例えば、神経細胞培養では、こうした対応が必要になることがよくあります。


容器の選定とコーティング作業

多層型容器の最初のコーティング作業は、ひとつひとつの容器に手作業でコーティングしなければならないため、バイオリアクターやマイクロキャリアのシステムと比べると人手がかかります。メーカーとしては、多層型容器に必要な作業時間(結果的に人件費)を他のシステムのECMコーティングと比較検討しておく必要があります。もう1つ考えておきたいのは、容器数が増えてくると、オペレーター間でばらつきが生じやすくなる問題です。

バイオリアクターによるスケールアップの場合、コーティング作業にあまり手間をかけずに大量培養が可能ですが、容器内の詰まりや流れの問題を回避するために、接着細胞用のコーティングを最適化しなければなりません。例えば、チューブに詰まりがないとか、必要なECM層を入れるスペースを確保するためにバイオリアクターの層同士を近づけすぎないといった点に注意を払います。

マイクロキャリアによる細胞培養は、浮遊培養と接着培養の中間的な位置付けです。微小球状のキャリアに、まずECMをコーティングしてから、細胞を播種した容器内に入れます。この結果、バイオリアクターのチューブが詰まる心配もなく、コーティング作業の手間も最小限に抑えることができます。コーニングでは、プレコートのマイクロキャリアを提供しており、いくつかのコーティングオプションがあります。なお、マイクロキャリアは、どの細胞タイプでも使えるわけではありません。前出のWilsonが説明するように、細胞タイプによっては、微小球体の曲面で良好に増殖するものもあります。一方、曲面で増殖すると遺伝子発現や治療機能が変化する細胞もあります。

大スケール製造中の染色体完全性の維持

研究者もメーカーも、幹細胞の分化を防ぐだけでなく、細胞のゲノム安定性を確実に維持することが必要です。

人体では、遺伝子変化で幹細胞様のがん細胞が生じることもあります。幹細胞とがん細胞の間にこのようなつながりがある以上、メーカーは幹細胞培養中に染色体異常がないかモニタリングし、ゲノム安定性が維持できるコーティングの選定を含め、発がん性リスク抑制措置を講じる必要があります。

Wilsonによれば、幹細胞の場合、「染色体完全性の維持に、マトリゲル基底膜マトリックスが依然として最も一貫性のある基質」となっています。ただし、これに限ったことではありませんが、スケールアップ用に基質を選択する場合、さまざまなポイントを慎重に考慮することが大切です。

Padillaは、次のように指摘します。「増殖速度が速い細胞のほうが、染色体異常を生じやすくなります。ときには、特異的な培地成分を使って、意図的に増殖速度を抑えることも必要です」。

コーティングの最適化でコスト削減も

治療薬の場合、メーカーは、患者に投与される段階までを見据えておかなければなりません。最終治療薬のコストを管理することにより、保険による払い戻しの可能性が高まり、患者の手に届く可能性も高まります。

幹細胞製造の多くのステップで、コスト上の検討事項や兼ね合いの難しさがついて回りますが、開発の早い段階であっても最終製剤のコストを抑えるチャンスがあります。Wilsonは、メーカーが事前に計画を立て、幹細胞試験の早い段階でスケールアップを考慮しておくことを推奨しています。「コーティングのコストが実に値上がりしているとの声を毎週のように耳にします。コストは大きな課題です」(Wilson)。

Padillaは、容器のコーティングでECMタンパク質濃度を低めにする実験を推奨し、次のように提案します。「お客様には、どこまでコストを抑えられるか実験をお勧めしています。いくつかの希釈を試してみましょう。6ウェルプレートを10 mg/mlでコーティングしているのであれば、タンパク質が必要量よりはるかに多い可能性があります。プロセス開発で希釈をテストする段階がとても大切なのです」。

また、メーカーは、動物由来、ゼノフリー、合成コーティングのいずれかのオプションを選択した場合の総費用も考慮しておく必要があります。

幹細胞関連でのコーニングの実績

コーニングでは、長年にわたって、画期的な製品で幹細胞関連の研究者やメーカーを支援してきました。コーニングの幹細胞培養製品細胞培養表面に関する各種資料のページをご覧ください。また、お問い合わせはこちらから承っております。